6.予感

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 シーンは山羊の乳が入った缶を手に、待たせていた馬車に乗り込む。御者の掛け声と共にゆっくりと動き出した馬車は、土埃を上げながら、街への道を走り出した。  木立の合間から午前の淡い光が差し込んでくる。朝の森は清々しく感じた。  ヴァイスに言葉で好意を伝えられたのは、昨日が初めてだった。  だが、以前からそれとなくそんな素振りを見せていた様に思う。  先ほどのように笑みを浮かべると、シーンの身体によろめいたふりをして抱きついたり、朝、起こしに来たシーンを近くまで呼びつけて突然、引き寄せたり。  そのたびに身体を密着させて来たが、シーンはすべて単なる寂しさの為だと意識せずにいた。子どもが母親を求めるのと同じだと。  だから性的なものだと考えないように努めてきたのだ。認めたくなかったと言った方がいいかも知れない。  その頃は既に家庭教師らも籠絡しており。夜遊びも頻繁だった。そこへ巻き込まれたくはないと、気づかない振りをしていたのだ。  しかし、やはりヴァイスは自分をそういう目で見ていた。  思えばそれは幼い頃からあったかもしれない。小さい頃はよく抱きつきキスをせがんだ。  シーンは仕方なく、唇の端や頬、額にキスを落としたが、いつも不服そうで。  挨拶のキスを唇に欲しいとせがんだり、湯あみの際に裸のまま抱きついてきたり。度を越し始めてはいた。  流石に十代になってからキスは控えたが、ヴァイスは変わらず抱き着いてきていた。  予測はしていたが、実際言われると──どうしていいものか。  勿論、受け入れるつもりはないが、それをどう伝えていくかが難しい。  一度の拒否で引き下がるとは到底思えない。それを証明するように、諦めないと口にした。その思いを昔から抱えていたなら尚更、諦めないだろう。ヴァイスの執念深さは良く分かっている。  自分がヴァイスをそういう意味で好きだったなら、もっと楽に事は進んだだろうな。  出世の道も開け、美しい主である恋人を得て安泰な日々。  知人の中にはそうやって主人に取り入って、自分の地位を確立したものも少なくない。  だが、私はそんな風にはなりたくない。  父のように立派な執事になることは幼い頃から夢だった。だが、そんな姑息な手段を使ってまでなろうとは思わない。  さて、どうするか。  悩みの種を抱えつつ、ハイトの家へと向かった。
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