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アストン夫妻が帰った次の日、シーンは仕事の合間にとある牧場を訪ねていた。
以前、その牧場主に、息子に何か仕事を紹介して欲しいと頼まれていたのだ。
息子は五人いて、流石に手に余っていたらしい。ハイトの件がなければ、まずこちらの青年をキエトに薦めていたはずだった。
面接代わりに軽く話をしてみたが、働き者の好青年だった。万が一、お屋敷に何かあっても、また実家の農場に帰って来ればいいのだ。彼なら打って付けだ。
キエトには申し訳ないが、ハイトを置いてはいけない。
シーンは屋敷を出る決意をしていた。
ハイトがそのきっかけになったのは確かで。やはり、自分の気持ちを無視はできない。手に入れて、更にその思いが増した。
どちらかと言えば、暗い方へ傾いたはずの天秤が、ハイトの存在で光のさす方へ傾いたのだ。
もし、自身を犠牲にすれば、暗い暗雲の垂れこめた日々に疲弊し、いずれは破綻をきたす。
そんな人生は本意ではなかった。
自分が自分らしく生きられるにはどうすればいいか、素直に考えて出した答えは、この屋敷を去るという決断。
幼い頃の夢も捨て、ヴァイスへ誓った忠誠も捨て。
身勝手と言うだろうか。
しかし、自身が進んで決めた決断でなければ、後々、ずっと後悔が残る。
もし、ヴァイスとの関係をさらに濃いものにするならば、それは自分を偽ることになる。負の思いを抱えたまま、人は幸せにはなれない。
私は、ハイトと共に幸せになる──。
次の仕事のあてはあった。シーンの母方の祖父母が住んでいた田舎だ。
かなり辺鄙な所だが、土地だけはある。もともと豪農で辺りの農地のほとんどを管理していたのだ。
今はシーンの亡くなった母親の姉、叔母に任せているが、そのも叔母も歳をとり、後を継ぐ者を探している。実際、継がないかと請われてもいた。
その時は相談に乗るだけで、自分が継ごうとは思わなかったが、この状況になって継いでもいいと思った。
なにしろ、自分にはハイトがいる。彼は自分よりずっと農業や酪農には詳しい。
きっと二人ならやって行ける。
まだハイトには伝えていないが、きっと了承してくれるはずだ。
父やクライヴ様に反対されても、この思いは突き通す──。
シーンは未来を思い、これからある報告の気の重さも、軽いものにさせてくれた。
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