23.思惑

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 アストン夫妻が帰った次の日、シーンは仕事の合間にとある牧場を訪ねていた。  以前、その牧場主に、息子に何か仕事を紹介して欲しいと頼まれていたのだ。  息子は五人いて、流石に手に余っていたらしい。ハイトの件がなければ、まずこちらの青年をキエトに薦めていたはずだった。  面接代わりに軽く話をしてみたが、働き者の好青年だった。万が一、お屋敷に何かあっても、また実家の農場に帰って来ればいいのだ。彼なら打って付けだ。  キエトには申し訳ないが、ハイトを置いてはいけない。  シーンは屋敷を出る決意をしていた。  ハイトがそのきっかけになったのは確かで。やはり、自分の気持ちを無視はできない。手に入れて、更にその思いが増した。  どちらかと言えば、暗い方へ傾いたはずの天秤が、ハイトの存在で光のさす方へ傾いたのだ。  もし、自身を犠牲にすれば、暗い暗雲の垂れこめた日々に疲弊し、いずれは破綻をきたす。  そんな人生は本意ではなかった。  自分が自分らしく生きられるにはどうすればいいか、素直に考えて出した答えは、この屋敷を去るという決断。  幼い頃の夢も捨て、ヴァイスへ誓った忠誠も捨て。  身勝手と言うだろうか。  しかし、自身が進んで決めた決断でなければ、後々、ずっと後悔が残る。  もし、ヴァイスとの関係をさらに濃いものにするならば、それは自分を偽ることになる。負の思いを抱えたまま、人は幸せにはなれない。  私は、ハイトと共に幸せになる──。  次の仕事のあてはあった。シーンの母方の祖父母が住んでいた田舎だ。  かなり辺鄙な所だが、土地だけはある。もともと豪農で辺りの農地のほとんどを管理していたのだ。  今はシーンの亡くなった母親の姉、叔母に任せているが、そのも叔母も歳をとり、後を継ぐ者を探している。実際、継がないかと請われてもいた。  その時は相談に乗るだけで、自分が継ごうとは思わなかったが、この状況になって継いでもいいと思った。  なにしろ、自分にはハイトがいる。彼は自分よりずっと農業や酪農には詳しい。  きっと二人ならやって行ける。  まだハイトには伝えていないが、きっと了承してくれるはずだ。  父やクライヴ様に反対されても、この思いは突き通す──。  シーンは未来を思い、これからある報告の気の重さも、軽いものにさせてくれた。
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