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次の日、父オスカーに辞意の意思を伝える為、シーンはオスカーの部屋へ向かっていた。
オスカーは朝の報告でクライヴの書斎に行っている為、部屋で待つつもりだ。
覚悟は決めていた。
何を言われようとも、この意志は突き通す。それが、自分の生きる道なのだ。
誰がどうとか、お屋敷の未来がとか、色々を考えるのはやめた。後悔が残らない道を選択した結果だ。
自分が今、一番、大切にしたいものを優先しただけ。
ハイトが傍らで笑っていてくれれば、それでいい。笑うハイトを思うと、心が春の日差しを受けた様に、温かくなる。
オスカーの部屋の側まで来ると、下僕のアンリが小走りに駆けて来た。
「シーン! いいところに。オスカーは?」
「父なら今、クライヴ様の書斎に。──アンリ、廊下は走るなとあれほど言っているだろう?」
「そんな場合じゃない! 今、電報がきて、これ!」
「何を慌てて──」
アンリが手に持っていた紙を胸に押し付けて来た。
「──これは…」
電報の紙面には『数日後に帰国。クラレンス』とあった。
「クラレンスが…生きている?」
シーンが手渡した電報を凝視したまま、クライヴはそこに立ち尽くした。傍らに控えるオスカーも流石に動揺を隠せない。シーンは言葉を続ける。
「今、正確な情報を確認中ですが、軍の事務局に確認したところ、やはり間違いはないようです。詳しい日時などはまた連絡するとのことです」
「これが──本当なら…」
「ヴァイス様のお披露目は延期をいたしますか?」
オスカーが控え目に伺った。
「…クラレンスの状態を確認してからだ。五体満足なのか…」
「そこもじきに分かるかと。今しばらく、お部屋で待ちくださいませ」
シーンの言葉に頷くと。
「早く情報を寄こせと伝えろ。もし、クラレンスが生きて、怪我もなく無事なら、継ぐのは──」
この好機を逃してはならないと、シーンは居住まいを正すと、
「あと一つ、ご報告したい旨がございます」
「なんだ? 今でなくては不味いのか?」
「はい」
クライヴは怪訝な顔つきになる。それはオスカーも同様だ。
シーンはそんな二人に臆する事なく、ひと息にそれを口にした。
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