3.訪問

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 部屋に入って一番に思ったのは、かなり古びていると言う事。  白い壁は所々すすけヒビも入っている。床は丁寧に磨かれているが、それでは追い付かないほど傷んでいた。  それでも、ここは最上階のためか、階下よりは明るく日差しも入ってきている。  ハイトはすぐにあったキッチンのテーブルへ荷物を置くと、シーンの持ってきた分も受け取りそこへ置いた。 「お爺ちゃん。今日はお客さんが来たんだ。薬も買えたよ」  いいながら、シーンには座る様に薦め、自分は奥の寝室へと向かう。しわがれた声が聞こえてきた。  そうか、とか、すまないな、とか、そんな声が所々聞こえてくる。と、そうして奥の会話に耳を傾けていれば。 「あなた、誰?」  妖精のささやきの様に小さな声が聞こえた。  振り返ると、くたびれたリネンの寝巻きを身に着けた、白い子どもが立っている。  白い子どもと言う言い方は可笑しいが、その表現が的確なくらい、着ている寝巻きと肌の色が同化していた。首も手足も細く、ハイトより更に身体付きも貧弱で。 「私はシーン・サイラス。君は…」 「イルミナ。イルミナル、妹です。今年、七才になります…。イルミナ、寝てないとだめだよ。良く効く薬を買ってきたから、それを飲んで暫く休むんだよ?」  奥の部屋から戻ってきたハイトが声をかけてきた。  クレールがこの薬はいいものだが、強すぎて子ども向けではないといい、分量を子ども用に分け直してあった。  包みを開き、中の袋からさらに小分けされた粉薬を取り出す。白い薄い紙に包まれた薬を大事そうにハイトは手に持った。しかし、イルミナは首を振る。 「…苦いのいや」 「いやでも飲まないと。な?」  コップに水を注ぎ、食卓の椅子に座った少女の元へ薬を持っていく。イルミナは眉間にしわを寄せ口を開こうとしなかった。  イルミナの向かいに座ったシーンは見かねて声をかける。 「その薬は山羊の乳にまぜてもいいと言っていたな? もらってきたそれに混ぜるといい」 「あ…その、山羊の乳はおじいちゃんに飲ませたくて…」  ハイトは薬を持った手を一旦下ろす。  妹に与えてしまえば、祖父にやる分が減ってしまう。確かにハイトのいう通りだが。 「山羊の乳なら、安く手にはいる場所を知っている。私が用意するから、遠慮なく妹──イルミナに飲ませてやるといい」  山羊の乳なら屋敷が管理する農場に幾らでもある。雇われている者ならそこから格安に入手できた。それを多めに買って分ければいいだけのこと。 「…本当に? 良かった! よし。イルミナ、山羊の乳に混ぜたら飲めるよ」 「本当?」 「ああ。山羊の乳は美味しいぞ」 「飲む!」  ハイトは先ほど貰てきた中にあった大ぶりの瓶を取り出し、用意した鍋にそっと一人分、コップ一杯分を注ぐと、点いていたストーブの上に置き温めた。  ふつふつと泡がたつほんの少し前、ストーブから外すとこぼさない様にそおっとコップへと注ぐ。  そこへ薬の包みを開け、溶かしこんだ。粉上のそれはなんの匂いもなく、細かい粒子はあっという間に溶けてなくなる。 「さあ、イルミナ。これなら飲めるだろ? 熱いかもしれないから気を付けて」 「…うん」  先ほどと同じように、大人しくテーブルに着いたイルミナは、前に置かれたミルク入りのコップを両手でそっと持ち上げて口に近づける。  用心深くそっと口をつけていたが、二口目からは気にせず一気に飲み干した。 「──美味しい!」 「だろ?」  その様子にハイトは満足げに笑む。 「さあ、薬を飲んだら眠ること。その前に、サイラスさんにお礼を言うんだよ?」 「お礼なんて、私は何も──」 「ありがとう。サイラスさん」  イルミナは軽く会釈して見せ、にこりと笑んだ。  まさに天使の笑みで。笑った顔はハイトとよく似ている。大人になればさぞ美しく育つだろう。 「どういたしまして。また、元気な時に話しをしよう」 「うん!」  ハイラスの言葉に大きく頷くと、ハイトともに寝室へと向かった。
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