26.暗い焔

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 二人を見送った後、治まり切らない感情をぶつけるように、ヴァイスは手近にあった花をあしらった華美な花瓶を手に取り、今二人が去ったばかりの扉に向けて投げつけた。白い破片が辺りに飛び散る。 「…許さない」  するとリオネルはため息をつき。 「あれはもう、君の手には入らない。わからないかい? 引き際を見極めないとね。何も彼だけがこの世の全てではないんだ。いくらでも君にあう人間はでてくる。君は少し広い世界を見た方がいい」 「黙ってください! 僕の、あれは──っ、僕のものなんだっ!」  さらに手近にあった本棚の本を手に取り、手あたり次第ぶちまけていく。そのヒステリーに流石のリオネルもあきれ返ると。 「ヴァイス。いくら駄々をこねても、ああなれば二度と君の手には入らないよ。君がなんと思おうと、何をしようと、人の心は変えられない…。何度も言うが、君は他へ目を向けるべきだ。それが救われる唯一の道だよ。私が言えるのはそれだけだ。気が向いたら私の店においで。君の思うような相手も見つかるさ」  それだけ言いおいて、リオネルは部屋を出た。甥のお守りなどごめんだというばかりに。  勝手なことを。何が他に目を向けろ、だ!  シーンと同じ事を言う。 「あれは、僕のなんだ…」  同じ言葉を何度も繰り返す。  その脳裏には幼い頃からずっと一緒だった頃のシーンが浮かんでいた。  こちらに笑いかけ、優しく名を呼ぶ──。  あれは、僕だけのもの。  ヴァイスの目に、暗い焔が灯った。  
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