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二人を見送った後、治まり切らない感情をぶつけるように、ヴァイスは手近にあった花をあしらった華美な花瓶を手に取り、今二人が去ったばかりの扉に向けて投げつけた。白い破片が辺りに飛び散る。
「…許さない」
するとリオネルはため息をつき。
「あれはもう、君の手には入らない。わからないかい? 引き際を見極めないとね。何も彼だけがこの世の全てではないんだ。いくらでも君にあう人間はでてくる。君は少し広い世界を見た方がいい」
「黙ってください! 僕の、あれは──っ、僕のものなんだっ!」
さらに手近にあった本棚の本を手に取り、手あたり次第ぶちまけていく。そのヒステリーに流石のリオネルもあきれ返ると。
「ヴァイス。いくら駄々をこねても、ああなれば二度と君の手には入らないよ。君がなんと思おうと、何をしようと、人の心は変えられない…。何度も言うが、君は他へ目を向けるべきだ。それが救われる唯一の道だよ。私が言えるのはそれだけだ。気が向いたら私の店においで。君の思うような相手も見つかるさ」
それだけ言いおいて、リオネルは部屋を出た。甥のお守りなどごめんだというばかりに。
勝手なことを。何が他に目を向けろ、だ!
シーンと同じ事を言う。
「あれは、僕のなんだ…」
同じ言葉を何度も繰り返す。
その脳裏には幼い頃からずっと一緒だった頃のシーンが浮かんでいた。
こちらに笑いかけ、優しく名を呼ぶ──。
あれは、僕だけのもの。
ヴァイスの目に、暗い焔が灯った。
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