26.暗い焔

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 地下の廊下を抜け、いつもの使用人部屋へと向かう。そこから更に自室へと向かった。  まだ、皆食堂にいるようで、他の使用人とすれ違う事はない。  部屋に入ってから漸くハイトと向き合う。肩に手を置いて顔を覗き込んだ。 「ハイト。大丈夫か? 気分が悪いだろう。 浴室でシャワーを浴びてくるといい。ここで待っているから」 「いいよ、そんな。シーンはまだ仕事が残っているだろ? 俺は大丈夫…」  ハイトは視線を逸らそうとするが、その頬に手を添えると。 「顔色が良くない。震える君を放って、仕事など手につかない。…さあ、浴びておいで。気分がすっきりする。なんなら、一緒に入ろうか?」 「シーン…、それって、からかってる?」  シーンを見上げたハイトは少し頬を膨らます。元気が出てきた様子にシーンは笑みを浮かべると。 「からかってなど…。心配なだけだ。まあ、そういう気がないと言えば嘘になるが…。ハイトに余計な気を使わせる。今は止めておこう。さあ、浴びておいで」 「…うん」  顔が赤くなる。シーンは着替えとバスタオルを渡すと、ハイトは大人しく浴室ヘと向かった。その細い背を見送る。  シーンがハイトを抱いたのはあれきりで、その後は触れていない。  触れたいのは山々だが、けじめとして、先が見えるまでは手を出さないと決めていた。  それに、ここにはヴァイスがいる。  彼がいる屋敷内では、安心して彼に触れる事は出来なかった。  シーンはこれから先を考える。  自分が辞して、ハイトも連れていくとなればヴァイスがどんな手段に出るか。先程の様子では、無事にここを出られるか分からない。  それなら──先にハイトを家に帰しておくか。  先に辞めさせておいた方が賢明だった。そうしておけば、自分がいないところでハイトが被害を被る事はない。  だが、兄クラレンスが無事戻って来るまでは、身辺も忙しくなる為、動けそうになかった。  なんにしても、ヴァイスの横やりだけが心配で。  用心しないとな。  自分が長く仕えてきた主にこんな思いを抱くのは悲しいことだったが、知っているだけに仕方のないことだった。ヴァイスの気質は良く知っている。  なんとしてもハイトに危害が及ばないようにしなければ──。  シーンはハイトを守る事に、今まで以上に注力する事に決めた。
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