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「ん…」
「まだ、寝ていていい…」
そっと濃いブラウンの髪を梳くと、身じろぎこちらに身を寄せてきた。
露になった肩へ上掛けをかけなおすと、腕の中にハイトを抱き込む。
田舎の朝は寒い。そろそろ収穫の時期を迎えるこの季節は、寒さも以前より増してきている。
自分でもこんなにと思うほど、ハイトに溺れていた。今まで付き合ってきた女性に対して、ここまで我を忘れて求めたことはない。自分は淡白な方だと思っていたのだが。
すっかり、ハイトに惚れ込んでいるのだな。
自分でも呆れるくらい、ハイトにぞっこんだった。本当に、誰の目にも触れない場所へ閉じ込めて、自分だけのものにしたいと思うほど。
控えめで、でも芯のしっかりした、強い眼差しを持つ青年。どんな辛い環境でも、前を向き、今できる最善を尽くしてきた健気なハイト。
それまでは執事として生きることが人生の目標で、生きがいだったのに、今では彼のいない人生など考えられない。
どこにでもいそうなのに、そうはいない。
ハイトを見つけ出せて良かったと思う。あの出会いがなければ、きっと会うこともなかっただろう。
人の出会いは面白い。
しかし、今思えば、あれは偶然ではなく必然だったのだと思う。
ヴァイスの扱いにも、執事としての将来に影が差していたのも事実で。ハイトはきっかけでもあったのだろう。この先をどう生きるかの。
そして、私は選択した。
どう生きれば自分らしくいられるのか。輝く未来が待っているのか。
それを気付かせてくれたのが、ハイトだ。
私の人生の指針。
眠るハイトを見下ろし、額に口づける。健やかな寝息に、これから先もこのままであって欲しいと強く願う。
私だけのハイト。
私は彼だけの、忠実な執事──。
彼と進む未来が光に満ちたものになるように、全力を尽くすことを誓った。
風に揺れ、音を立てる金の海原。その先に立つのは──。
私の愛しい人。
「シーン!」
自分を呼ぶ声に大きく手を振って答えた。
ーEndー
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