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ハイトとは大通りを出た所で別れた。
ハイトの家に電話はないが、管理人室にはある。訪れる際は連絡することを約束した。
ハイトは去っていくシーンをずっと見送り、振り返れば手を振って返す。
流石にこちらも大手を振り返すのは少々気恥ずかしい。軽く笑んで会釈をした。
いい子だな──。
素直にそう思えた。
かなり貧しい生活を送っているはずなのに、すれてはいない。
厳しい現実に立たされたことも度々だろう。それでも、家族を守るため健気に頑張る姿にシーンはうたれた。
あの薬の金策も。
かなり辛いことだったことが想像に難くない。
クレールのもとで診察を受けていた際、シーンがハイトの手首の痣に目を止めると、クレールが視線を投げかけてきた。
何も言うなと言いたげで。その様子にそれ以上追及しなかったが。
あの時は思い当たらなかったが、あれは──。
両手首にある赤黒くうっ血した痣。拘束されなければ出来ないものだ。
他にも疲れた身体。見えない場所に残されただろう傷。クレールの言葉に顔を赤くするハイト。
高価な薬を買うために、手っ取り早くお金を得る方法はそう多くはない。
それで、何が起こったのか想像がついた。
あんな、やせ細った身体で──。
シーンは彼のやるせなさを思い、唇を噛みしめる。彼を卑しいとは微塵も思わなかった。逆に彼が笑顔でいられるように、なんとか手助けしたいと思ってしまう。
二度とハイトにそんな惨めな行為をさせないためにも。
シーンはすぐに屋敷へと取って返した。
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