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第1話 夏は気楽だ
夏は気楽だ。
僕は学校に行けなくなってから、肩身の狭い思いをしているのだが、夏は気楽でいられる。
今は学生が夏休みだからだ。
夏休みになったから、学校に行けなくたって僕が誰かに文句を言われたり、「あの子ずっと学校休んでるのかしら?」とか思っていそうなご近所の目を気にすることはない。
青いカーテンを閉めた自分ぼくの部屋は、たっぷりと澄んだ水を貯めた水槽のなかみたいに幻想的になった。扇風機の風でゆらゆら揺れる青のヒダヒダが強烈な太陽の陽光を部屋の中に入れたり遮ったりして、するとまるで僕は水中にいるみたいだ。
いつかの海を思い出す。
海中に潜ると頭上にプリズムや万華鏡みたいにキラキラ光が漂っているのが見えていたっけ。
僕は朝から携帯のゲーム機を出してきて、やりこんで上手くなりすぎた格闘ゲームを始めた。
大好きなゲームのBGMは聴き飽きることが無い。
ガンガンに冷房が効いた6畳の部屋が、僕のほぼ存在する世界。
数年前にお父さんが家を出て行ってから、一人っ子の僕はお母さんと二人っきりの生活になった。
お母さんを安心させたくて、一生懸命勉強をして県内でもトップの公立高校に受かった。
自信があった。
僕は自分が頭が良いのだと天狗になっていたのかもしれない。
自慢してまわった訳ではないが、あの時の僕は頭が良いんだぞとか鼻にかけたような態度の奴に見えていたらイヤな野郎だよなぁ。
僕は自分が頭が良いと思っていた。それなのに、進学した高校では勉強にぜんぜん追いつけなかった。定期テストでは順位がビリに近い。
僕は落ちこぼれだ。
そのうち僕は自分の不甲斐なさに学校を休みがちになり、とうとう行けなくなった。
まさか不登校に自分がなるとは思わなかった。
家に引き籠る毎日は、永遠に続くかのよう。
僕を社会から孤立させ、苦しませている。いいや、僕が世間から逃げているのか。
あぁ、この夏がずっと続けばいい。
僕が学校に行かなくてすむように。
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