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けっきょく、私に近寄ってくる男性たちに良いところは無いようだ。
食欲が湧かない私は、朝食を食べるのも気にせず冷蔵庫からワインを取り出した。
葡萄色の液体は濁っているからグラスの先を見通すことができない。まるで、自分の孤独な心を表しているみたいだった。
恋愛を海に例えるなら、もう泳ぎ疲れてしまった。
この先どうなるのだろうか。また新しい人とアプリで出会うのかもしれないけれど、今はそんな気分にはならなかった。
酔いが回っているみたいだ。でも、視界が崩れるのを理解しながら次々と飲んでいった。
もう何もかもすべてどうにでもなれば良い。
愛を計るより、愛したいな......。
そんなことを考えながらうたた寝をしてしまった。眠りに入る手前で、どういうわけかユタカさんのことを思い出していた。
・・・
顔を上げると、空に鯉のぼりが泳いでいる。
「こいのぼりの里まつり」のイベントにやってきた。ひとりでいる私はいつの間にか涙を流しながら水面を見つめていた。
かの文豪も将来のことを案じて、川に身を投げたという。ともに飛び込んだ女性がいたらしいが、お互いに明るい未来をイメージできなかったのだろう。
私だって、愛する人は胸の中にいる。彼と一緒なら、川の中を流されても怖くはない......。
・・・
私を薄暗い夢の中から救ってくれたのは、インターホンの音だった。
抱えるくらいの段ボールを抱えて部屋に戻ってくると、私は差出人に目を丸くした。
ユタカさんだった。以前、何かあったときのためにと住所を教えていたのに、プレゼントを送るなんて考えもしなかった。
慌てて封を切る。そこにはハンドバッグと、小さな手紙が一通入っていた。
*───────────────────
由香里さんへ
あれから素敵な方と巡り会っていますか。
僕と出会ってくれて、色んな漫画を教えてくれて、本当にうれしかった。だけどこちらからは何もできずに申し訳ないと思っています。
せめてもの誕生日に、ハンドバッグを贈らせてください。
僕にはよくわからなかったから、妹に付き合ってもらって、選び出しました。
妹もあなたに会いたいそうです。
しかしながら、彼女は重い病に倒れ、家族皆でアメリカへしばらくの間渡ることになるでしょう。
僕のことは忘れて。君が元気でいることが僕の願いだから。未来へ、振り向かないで。
本当にありがとう。
────────────────────
段ボールを抱きかかえながら大粒の涙を流す。ずっと私のことを想ってくれたなんて、本当に私にはもったいない人だなあ。
あの日見たのは本当に妹さんで、病気を患っていながらも私のためにハンドバッグを選んでくれたんだ。
自分のことしか考えられない私で、本当にごめんなさい。
私はずっと振られたものだと思っていた。
でも、ユタカさんは恋愛からいったん身を引いただけのように思えた。愛する気持ちに妹さんも私も優越の違いはなくて、健康でいて欲しいという願いを込めているんだ。
晴れ渡る空に泳ぐ鯉のぼりのように。
「......そうだね、前を向かなきゃだね」
私はひとりつぶやいた。喜びと悲しみを眩しい空に解き放つと、自然と涙は止まり再び笑顔を作れるようになった。
たとえ新しい恋に巡り会っても、心の中でユタカさんとずっと一緒に泳いでいたい。
今から、君に逢いに行くから。
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