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 私は好きな人を選んだ。  隣に並んで歩く彼は、通りの向こうを指さしながら、あれだよ!と声をかけてくれる。でも、私は背が低いからよく上目遣いになってしまう。彼の表情を見るのも大変だ。 「うわぁ!」  私は明るい声を出して喜んだ。爽やかな皐月の空の下、大きな川の上に吊るされているのは鯉のぼりだ。    ここは、「こいのぼりの里まつり」というイベント。5,000匹もの鯉のぼりが美しく並んでいる光景に、私の瞳はきらきらと輝く。 「すごいでしょ? 君が貸してくれた漫画に載ってたからね、ユカさんにいつか見せたいと思ってたんだ」  ギネスブックにも登録されているというお祭りを喜ばない人はいないだろう。ああ、とても綺麗な光景に思えた。  その空には燕が高く飛んでいて、私の恋心も色鮮やかな空に浮かんでいるだろう。  彼のことを、ユタカさんのことを選び出して本当に良かったと思っている。    ・・・  私たちの出会いはスマートフォンの中だった。それはマッチングアプリと呼ばれるもので、自分の年齢や趣味嗜好、結婚の価値観などのプロフィールを登録して異性を探し出すwebサービスの総称だ。  主に婚活のために使用され、お互いを気になる相手として認識すればカップル成立となる。  昨年見たニュースでは、男女の出会いの場が一位という結果となったらしい。 「本当に出会いないよねえ」  と口にしたのは、いつの日かの友人との女子会の席だ。お互いに30歳の方が近い年代で、勉強や仕事に生きていた私は恋愛というものが本当に優先度が低かった。  そして、いつの間にかこぼしていた一言が呼び水になるとは思いもしなかった。  上品なボブヘアーの彼女はにやにやとした表情をしながら、私がビールを飲む瞬間をスマートフォンのカメラで撮影した。私がツッコミを入れる間もなく、彼女はマッチングアプリのことを説明しはじめたのだ。 「まあまあ、やるだけやってみなよ。君だってなにか発見があるかもしれないよ」  話の流れはとんとん拍子に進み、私の本名である()香里(かり)から抜粋したハンドルネームである"ユカ"が誕生した。  まあいいか、と彼女が今撮影した顔写真をプロフィールに登録する。こんなビールジョッキを抱える女に注目が集まるのだろうか......。
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