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海から車を走らせること、約一時間。
街の喧騒から少し離れた静かな場所。門についたインターフォンに、湊介が声をかける。
「お嬢のお帰りですぜ。出迎えよろしく」
……正直、出迎えなんて必要ない。でも、これがこの羽賀家の伝統だから仕方がない。
そう思いつつ、私は湊介に車のドアを開けてもらって、地面に足を付ける。
瞬間、強面の男たちが一斉に頭を下げた。
「おかえりなさいませ、お嬢!」
一糸乱れぬ動き。そして、一言一句変わらない言葉たち。
それを聞きつつ、私はそばに来た湊介に持っていた鞄を手渡す。
その後、屋敷の玄関まで歩く。頭を下げる男たちの間を通り抜け、振り返る。
「もういいわよ。ご苦労様」
端的に言葉を告げれば、男たちは「へい!」と声を上げ、それぞれ持ち場に戻っていった。
「いやぁ、お嬢。本日は本当にお疲れ様でした!」
湊介は、ニコニコと笑いながら私の側に寄ってくる。湊介は羽賀家の人間ではないので、男たちの間を通ることが出来ない。なので、横道から私の元にやってきたのだ。……こういうの、面倒だと思う。
だけど、やはり伝統だから仕方がない。
「あ、そういやお嬢。先代が来てるっていう報告上がってます!」
「そう」
「なんでも、お嬢に大切な話があるとか、なんとか……」
湊介がきょとんとしつつ、そう言う。……大の男のきょとん顔は、大して可愛くない。いや、この家に住んでいる男の中では、湊介は可愛い部類なの……かな?
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