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「まずは、謝罪をさせてほしい」
「はあ……」
学院併設のカフェ、その個室。皺ひとつないお仕着せ姿の給仕係が退出したのち、前の席に座っている男が頭を垂れた。
白銀の髪がさらりと頬を流れ、天窓からの光に反射してきらめく。
まるで絹糸のような美しく艶やかな髪をした青年の名は、たしかクレフティス・エトガル・フォルナー。フォルナー公爵家のご子息で、十六歳のエイミーにとってはふたつ年上の先輩だ。
入学して半年ほどしか経っていないエイミーですら名を知っているのは、彼がその容姿でもって、とても有名なひとだからである。
やや青みがかった銀髪は白に近い色で、金髪を主とする王都民のなかにあって異彩を放つ。
髪色だけならともかくとして、ルビーのような赤い瞳は異質なものとして映った。建国神話に出てくる『魔の者』の瞳が赤く描かれることもあり、畏怖の対象とされることも少なくはない。
時代錯誤もいいところだと、エイミー自身は思っている。
白い毛に赤い瞳、ウサギみたいで可愛いじゃないか。
「巻き込むつもりはなかったのだが」
「まあ、あの状況だと仕方がないかと」
「本当に、すまない」
「あの方、すごい怖かったですもんねえ」
クレフティスに詰め寄っていた女子生徒は、圧がすごかった。たまたまその場を通りがかっただけのエイミーも、震えて思わず立ち止まってしまうぐらいだ。
貴族令嬢とはかくあるべきなのか。
辺境に引きこもっていた男爵令嬢は感嘆の息を漏らすばかりである。
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