01 婚約破棄の理由

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「あら、まあ。それもまた戯曲みたいですね。第二王子殿下のためを思って、クレフティスさまは身を引かれたのですか? 嘘をついてまで?」 「どうだろう。頼まれたことはたしかだけど、ベルナールの我儘に付き合ってやったのは、アマンダ嬢の気持ちを知りたかったというのもあるのかもしれないな」  アマンダが求めているのは、未来のフォルナー公爵夫人という肩書なのだろうという疑惑は、クレフティスの中でくすぶっていた。  貴族間の、親が決めた婚約に恋情が介入することは稀だと知っているけれど、親愛の情ぐらいはあってほしいと願うのは、我儘ではないはず。  逢瀬の場でも扇で口許を隠し、微妙に視線を外しながら会話をするアマンダ。  本音を見せない、上滑りするだけの会話に疲弊していたクレフティスにとって、今回の騒動は自分たちの関係を見直すキッカケになればと思ったらしい。  破棄を告げたあとのアマンダの顔は、焦りに満ちていた。  公爵夫人への執着、相手の有責による婚約破棄によってもたらされる利益、より自分に優位になる形に持っていくための策。  瞬時にそういったことまで脳内に巡らせているようすが見て取れて、感心するとともに落胆も覚えた。  やはり彼女にとって自分は、お飾りなのだ、と。
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