前進と足踏み

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“昼間は連絡ありがとう。説明不足で悪かったね” スマホを肩に挟みドアを開けると、返事するのがひと呼吸遅れたので 「大丈夫です、大丈夫ですっ」 と二度も言ってしまった。頬とスマホの接触面が僅かにヌルッとしたように感じて、画面にファンデがついちゃったと思いながらそっとマグカップを置くと “茉優さん、今いい?大丈夫?” おかしな間合いを気遣う言葉が聞こえる。 「はい、大丈夫。すみません…階段を歩いてたので、ちょっと」 “うん。今日は楽しめた?連絡は嬉しかったけれど、途中で気掛かりを作ってしまったから悪かった” 「いえ。友達と楽しくお喋りして…明日客船見学に行くって言ったら“ドレスコードあり?”って言われたんです。それまで何も思いついてなかったから、とにかく小城さんに聞こうと思って」 “そうだったか。10時から22時の最長12時間滞在可能なんだけど、何時に行くのが都合いい?” 穏やかな透き通る声は夜にぴったりだ…いや…朝に聞いたことがないけれど、朝の方がぴったり? “レストランもいくつかあるから、ランチもディナーも船内でどうかと思うんだけど” 「都合は…大丈夫ですけど、ランチからディナーまで船内で退屈しませんか?」 言ってから失礼だったかな、と思ったけれど小城さんは同じトーンで即答した。 “茉優さんと一緒にいて退屈するはずがないんだよね。俺は退屈させない努力をすべきだね。船内にいろんな部屋やイベントがあるみたいだよ”
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