204人が本棚に入れています
本棚に追加
「これ、アンが作ったの。すごい」
「今日のために腕によりをかけて作ったの。デザインも布選びも、縫製も一人でやったから自信がついたわ。店長にも褒められて仕事も増えたのよ。休む暇がないくらい注文が入ってるの。そのうち独立できたらなって」
どんなことをしたらこれほど複雑で精密なデザインが作れるのか、エルマには検討もつかなかった。それぞれ得意なことがあるのだろう。
「今日はなるべく町をゆっくりこのドレスで歩いて。みんなうらやましくなると思うの。店の宣伝をする代わりに布を安くわけてもらったし、元を取らなくちゃ」
商魂たくましいアンを尊敬の目で見る。
支度が終わった頃、母のクラウディアもやってきた。一瞬目を細めてから、そばに来てエルマの手を取った。
「子どもの時の思い出しかないから、急に大人になって戸惑うわ。とてもきれい。私の若い頃そっくりだわ」
さりげなく自画自賛を混ぜた母だったが、その目には涙が滲んでいた。
「母さん、お願いがある」
「今日はおめでたい日だもの。なんだって聞くわ」
エルマが小声で母に囁いた。
「私は怒ってなどいないと、今度母さんからあの人に伝えて」
最初のコメントを投稿しよう!