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朝日に照らされたエルマが、父のことを語るのをレオンは穏やかな気持ちで聞いていた。
ハンネスによると、ベルガー侯爵は、母子と別れて以降必死に出世街道を歩んだという。
やはりあそこまでの地位にのぼりつめたのは、法改正するだけの権力をつけるためではないか。だんだんとそう思うようになってきた。
現に、幾人か魔女として投獄されていた者が、ベルガー侯爵の計らいで釈放されたと思われる記録もあった。
「贖罪か……。なにか彼にも抜き差しならない事情があったんだろう」
レオンも、エルマを忘れられないまま残りの人生を歩む可能性があった。エルマもずっと一人で暗い森にいたかもしれない。
そのことを思うと肝が冷える。
できるのは、エルマやこれから生まれてくるかもしれない子どもが安心して暮らせる世を作っていくことだ。
「レオン。私を森から出してくれてありがとう」
「どうした急に」
「やっぱり人には人が必要なのかもしれない」
「そうだな」
そう言って、レオンはそっとエルマに口づけた。
──夏になったら、またあの森へ遊びにいくのも悪くないな。
そんなことを思いながら。
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