悲嘆の王妃と神託の騎士

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「私に下った神託を教えてあげましょう。『汝は愛と国を秤にかけ愛を取る』よ。王の神託の後だったから、『愛』を皆王のことだと思っているわ。政略結婚で嫁いできた女が国ではなく伴侶に忠誠を誓う、それを厭う君主などいないでしょう」 「自分の心に嘘を吐いたのですね」 「そうよ、私は王を愛してなどいなかった! 私が愛したのはただ一人。嗚呼、貴方だけだったのよ。この十数年ずっと、ずっと貴方だけを愛してきたの——」  王妃は騎士に手を伸ばした。最早この玉座にそれを咎める者はいない。  騎士はそれには応えず、目を伏せる。 「一介の騎士である私風情が、王妃様に恋情を抱くなど、本来あってはならないことです。——ですが、過ちを犯してしまうほどに、私は貴女様のことを——ずっと、お慕い申し上げてきました。この心は一生秘めておこうと思っていたのです。  私に下った神託は『汝は主君を裏切り愛に殉ずる』でした。だからこそ私は騎士を辞め、市井に下ったのです。王の命に背き、お二人の愛の結晶を育てる。それが『主君を裏切り愛に殉ずる』こととなればと思ったのです。  しかし、今となっては——。やはり私は『主君を裏切り愛に殉ずる』不忠義者でしかないのでしょう。私は王妃様の命に従います」  騎士は剣を掲げ、頭を垂れ跪いた。王妃は剣を取り、騎士の肩を叩く。  二人の間に入る隙はなかった。その姿はあまりにも完全で、あの日語られた騎士物語の約束された場面そのものだった。
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