悲嘆の王妃と神託の騎士

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悲嘆の王妃と神託の騎士

 ある国に、一人の王女が誕生した。その国では神殿が力を持っており、事あるごとに神殿で神託を聞くのが習わしだった。王は神殿に出向き、国の行末について、神託を乞うた。 「汝の娘が王妃の最も愛する者の寵愛を受け国を傾けるだろう」  隣で聞いていた王妃は悲鳴の如く言った。 「それは、娘が父である王を誘惑し、傾国となると言うことか」 「そうとも取れます」 「王、娘を殺してしまいましょう。息子が生まれるまで、何度でもやり直せば良いのです」 「しかし……」 「神託は絶対です。近衛騎士よ、この赤子を殺しなさい」 「仰せのままに」  (かたわ)らに侍った騎士は恭しく赤子を受け取り、城の外へ消えた。  しかし騎士は赤子を憐れに思い、市井(しせい)に下り、自らの手で育てることにした。  かくして、運命の歯車は回る。女神の紡ぐ糸がどんな運命を紡ぎ出すのか、人々はまだ知らない。
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