悲嘆の王妃と神託の騎士

12/14
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
「王の子は貴女一人です。私たちは子に恵まれなかった。貴女が国を治めなさい」 「私は羊飼いです。国なんて治められません。それにお腹に子供だっているの」 「——そう。貴女は私の欲しいものを全部持っているのね。愛も国も、全てを手に入れるなんて、貴女は運命に祝福されているのだわ」  娘は息を飲んだ。娘の胸に湧き上がったもの、それもまた怒りであった。 「——祝福な訳ないでしょう!? お父様は貴女を——私ではなくて、貴女を愛しているのに! 他人の愛なんて手に入れたって、何の価値もない! 私はお父様に裏切られたの! 貴女の身代わりにされたんだわ! 父と子として育んだ時間の全てを、たったの一夜で台無しにされてしまったんだわ。私の神託には愛なんて、出てこないもの!」 「それは——本当に、申し訳なく思っている。私が不甲斐ないばかりに、過ちを——」 「——お父様。私は親子としての裏切りは、時間が経てば赦せます。貴方が育んでくれた十五年、本当に誠実でした。これからも誠実に私と子を守ってくれるなら、きっと赦せる日が来たでしょう。  でも、一番赦せないのは私との一夜を過ちだと言ったことだわ。一夜限りの過ちだ、忘れてくれと——。  在ったことを無かったことにすることはできない。一夜限りの夢も永遠になるんだわ。貴方の過ちは私の胎の中で膨れ上がり、十月十日もすれば貴方に罪を突き付けるでしょう。一生その罪を贖ってくれたなら、貴方の過ちが私への愛故に起きたものだったら、赦せた。貴方の愛が私であったなら、赦せたのよ……」  娘の瞳から一筋の涙が溢れた。娘には分かっていた。どんな言葉も二人の運命を変えられない。二人の間に結ばれた強固な糸に入り込む隙間など一部もないのだと言うことを。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!