悲嘆の王妃と神託の騎士

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「私の神託は『汝は父の死に立ち会えず、母と、子の父の死を目の当たりにする』よ。父王と王妃が急に二人とも死んでしまうから国が傾くんだわ。私のせいじゃない。私の神託には『王となる』なんて一言も書かれていない。二人の死を目の当たりにする——それだけしか。私は自由よ。貴女たちの運命を見届けたら、神託のない国へ行くの。もう運命に踊らされてたまるもんですか」  娘の目には炎が宿っていた。母への怒り。父への怒り。だがそれ以上に儘ならぬ世への怒り。その怒りは少女性を全て焼き尽くし、娘を大人にする。  娘は王妃の目を真っ直ぐに見据えた。王妃の瞳に最早炎はない。湖のように静けさを湛えている。覚悟を決めた、最早何事にも揺るがぬ目だ。王妃に跪く騎士の目も、きっと王妃と同じ瞳をしている。娘には見ずとも分かった。  相容れぬ二人の親子の道は、再び途切れもう二度と交わることはないだろう。片方の道は死出の旅へ続いている。 「——そう。では早く貴女を解放してあげなくてはね。私にできるのはそれだけだわ。  騎士よ、私の騎士——。私の首を刎ねなさい。女性に手を掛けるのが騎士の誉れに背く行為だとしても、貴方は愛のために騎士道を捨てられるはずだわ。  ——地獄までお供してくれるわね?」 「御心のままに。未来永劫に、この身は貴女様に捧げます」  騎士は剣を高く振り上げ、一息に振り下ろした。  娘は目を見開き、その全てを見届けた。
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