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「……皆、神託に踊らされて、バカみたい」
墓の前で娘はそう呟いた。眼前の墓には騎士一人が埋葬されている。娘の実母は実父と共に王族の墓に眠っている。
騎士は貴婦人の首を落とし、返す剣で自身の腹に剣を立てた。崩れ落ちる騎士の眼前に、貴婦人の転がった首があった。騎士は貴婦人の瞼を閉じると、その冷たくなった唇に接吻を一つ落とし、息絶えた。娘には見向きもせず。娘はその死を見届けた。
騎士と貴婦人は死後においても引き離された。王妃の死の原因は伏せられ、王を亡くした悲嘆の故に亡くなられたと民には報じられた。王妃の肉体は配偶者の元に埋葬され、精神だけが結び付きを保った。不義はあった。だが密通はない。二人の魂は天へ昇っていったのか、或いは地へ堕ちていったのか——。
兎にも角にも、結ばれる運命にあった二人は様々な人を巻き込んで、ようやく結ばれたのだ。残された者の心も知らず——。
娘はただ一人、墓の前で佇んでいる。
運命に翻弄された娘は何を思うのか。
娘の腕の中で、小さな命が泣き声を上げた。幼い命はその小さな体を全力で震わせ、世界へと投げ掛ける。
幼な子を抱えて、娘は旅立つ。
二人の行く末は、神託には語られない。
-了-
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