悲嘆の王妃と神託の騎士

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 さて、騎士を実の父であると思っている娘である。天真爛漫だった娘の相貌(かお)に翳りが見え始めた。  一夜の過ち。それで何もなければ——子を授からなければ、何事もなかったものとして生きていくこともできよう。  しかし沈黙を選ぶことは心を押し殺すことである。そうまでして、家に留まるべきなのだろうか?  もし父との交わりの末に授かった子だとしても、子に罪はない。だが婚前の乙女が懐妊したとあっては、この小さな村では痛い腹を探られ続けるだけだ。そして真実はいつか明るみに出る。  そうして娘は神託を受けに行くことに決めた。子を孕んでいるのかいないのか、運命は娘にどのような道筋を用意しているのか。  神殿には多くの者が集っている。生まれた時に神託を賜わるのが通例である。神殿には子を抱えた親が多く居た。  一方父が娘に神託を告げたことはなかった。もし生まれた時に授かった神託が破滅的な運命を孕んでいたとしたら——。  娘の番が来た。娘に下った神託は以下の通りである。 「汝は父の死に立ち会えず  母と、子の父の死を目の当たりにする」  娘は二つの相反する感情を抱いた。  ひとつは困惑。父だと思っていた男が実の父ではないという事実。神託に語られた二人の父の死について。また不在の母に関する記述。その全てに対する疑問。  ひとつは安堵。胎の子が忌まわしい罪の末に授かったものではない、即ち実の父ではないという事実。  全ては父と仰いでいた男が実父ではない、その一点に起因していた。  真実を知らなければ。男が何者か、実の父母が何者か、己の出自を知らなければならない。
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