悲嘆の王妃と神託の騎士

5/14

17人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
 神殿を後にした娘は帰路に着き、父を問いただした。 「……お父様は、私の実の父ではないのですか?」 「何故そのようなことを」 「神託を受けて参りました。神託の中には『汝の父』と『子の父』と出てきました。これは私の父がお父様ではないことを示しています」  男は天を仰ぎ、深く溜め息を吐いた。 「……本当のことを話そう」  男は十五年もの間、黙してきた事実を語った。自身が娘の父親ではなく、父王に仕える騎士だったこと。王妃の命で娘を殺す心算だったこと。だが良心が咎め自身で育てる選択をしたこと。 「誓って、王妃様には指一本触れていない。紛れもなくお前は王の子だ」  一息に言い切ってしまうと、騎士は再び深い溜め息を吐いた。話してしまえば呆気ないほど短い、十五年前の経緯(いきさつ)。 「……一つ、言わせてください」  娘は息をひとつ吐くと、騎士に向き直った。 「私は、お父様のことを父と慕っていました。まるで本当の父のように。王である本当の父がどんな人か、私は知りません。ですが全ての生き物の子が親を慕うようにお父様のことを信じてきました。血の繋がりがなかったとしても、これまで過ごしてきた日々の私たちは親子そのものでした。あの夜までは。  ……私は、お母様ではありません。どれほど姿貌(すがたかたち)が似通っていようと、別人なのです。貴方は子の信頼を踏み躙ったのだわ」  娘の目から涙が溢れ出した。その瞳に幼い頃から見てきた輝きはもうない。騎士は自身が奪ってしまったその純真に、ただただ項垂れるより他になかった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加