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鐘の音を聞いた瞬間、男の振る舞いは騎士のそれへと変わった。最早主君は先王ではなく、目の前の娘となった。
「城へ向かいましょう。貴女をお返しする時が来た。王が亡くなられたのであれば、もう貴女が傾城になることはない」
「嫌です」
行ってしまえばきっと第二の神託が成就され、子の父——育ての父は死んでしまう。
「城に行けば母に会うことになるでしょう。私に母はいません。父も。貴方だけだわ」
「……我が娘よ。全ては在るべき場所に戻るべきなのだ。私が奪ってしまった其方の姫としての人生を、この手で取り戻させて欲しい」
「貴方はその身分と引き換えに、私の命を救ったのよ。私は今のままでいい」
「だが、もう私たちは共に居るべきではない。賽は投げられたのだ」
娘は騎士の意志を曲げるだけの言葉を告げることができなかった。
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