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アヤノは家にいたが、まだ起きたばかりでパジャマ姿だった。着替えるのを待つ間、アヤノのお母さんが麦茶を振舞ってくれた。壁掛けの時計を見ると、家を出てからもう二十五分すぎている。僕ひとりだったらもう学校から帰る道すがらだったろう。サトミに声を掛けたことを後悔していた。
サトミ、ユカ、アヤノ。女子が三人になって、急に僕は肩身が狭くなった。そう言えばお父さんが言っていた。〈女三人寄れば姦しい〉って。お父さんは上と下に三人の姉妹がいて、苦労したらしい。今ならその苦労が少し分かる気がした。
通学路にあるコンビニの前をのんびりと歩いていると、双子のミノルとタクミがコンビニから出てきた。僕らを見ると、ニターっと笑った。
「なんだなんだ、お前ら」
「ハーレムか? それとも桃太郎か?」
僕は「どっちでもないよ」とため息まじりに答える。
「どこに行くの?」
ミノルがたずねた。
「学校!」
ユカが元気よく答えた。
「なんで?」
「しらなーい」
アヤノがまだ眠たそうなヘラッとした笑顔で答える。こいつはなぜ小学校に行くのか知らないのか……僕は一人、脱力した。
「おもしろそうだな」
「いっしょに行ってもいいよな?」
僕は「ああ、どうぞ。男子が入ってくれた方が、僕も助かる」と笑顔で受け入れた。
気づけば僕たちは六人になっていた。もう桃太郎じゃない。
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