家族になるということ

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綾華は何も話さない。しかし、蓮は続けていく。 「三重県って美し国(うましくに)って言われてるでしょ?旅行でここに来て、まだ数時間だけど美し国って呼ばれるのも当然だよなって納得した。海や山に恵まれているから、ご飯はおいしいし、景色も綺麗だし、志摩スペイン村とか鳥羽水族館とか子ども連れでも遊びに行けるところたくさんあるよね!」 潮風が蓮と綾華の間を通り過ぎていく。髪が撫でられていくのを感じながら、蓮は続けた。 「来年も、再来年も、その先も、三重県に旅行に来たいなぁ。いっそのこと移住しちゃおっかな。なんてね」 「何で!何でそんな風に考えられんの?」 綾華が大声で叫ぶように言う。綾華の顔には涙が浮かんでいた。白い頰に涙が伝い、洪水が起きたかのように激しくなっていく。 「私、蓮のプロポーズ断ったんやよ!別れる最後の旅行やと思っとったのに!」 蓮の胸が痛みを発する。一ヶ月前、プロポーズをした時に蓮が見せられたのは、病院の診断書だった。そこに書かれていた病名はーーー乳がんだった。 「どうして、綾華が乳がんだったってだけで別れなきゃならないの?乳がんでも手術をすれば大丈夫だって先生は言ってたんでしょ?」 「手術したら私、胸が片方なくなるんやよ?そんなの蓮に見られたない!胸が片方ない彼女なんて、プールや海に行けやんし、胸元の空いたウェディングドレスだって着れやん。それに……それに……私は二十代でがんになっとるから、遺伝性の乳がんかもしれやんって……」
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