第2の王道主人公

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 ふと、顔を上げると向こうからピンクの頭が見えた。俺はがばっと起き上がり姿勢を整える。キャラ作りのために数人をのぞいた生徒以外にだらけ姿を見せたくないのだ。そんな様子に気がついたのか春くんも地面の住民をやめて俺の隣に座った。 「あらやだ。子猫ちゃんたち。またこんな場所で群れてたの? おねぇさん心配だわぁ」 「倉木先輩。おはようございます」 「おはようございます〜!」  出た、俺たちに王道転入生を教えてくれた風変わりの先輩、倉木庵(くらきいおり)先輩だ。見た目は195センチだが、顔だけ取れば美人というなかなか目立つ先輩だ。ちなみに腐男子。大好きシスターズの影響をもろに受けたらしい。 「もう。2人で逢引きするのはいいけど〜、もっと安全な場所があるでしょう」 「一路の縄張りなんで、ここ安全っスよ」  俺たちをハートを作った手の中を覗き込んでくる先輩。一応手を振っとく。春くんは制服についた砂を払いながらことなさげ倉木先輩に言った。  そう、ここ一体はあいつの縄張りだ。ちなみに逢引きに関しての言葉は無視。この学園でその言葉類にいちいち反応してたらキリがない。   「一路ちゃんの? あらやだ、私が安全じゃないじゃない。相変わらず、仲良いのねぇ〜」 「リーダーっスからねぇ〜」  倉木先輩はつかつか歩いてきて俺たちのあいだどっか座り込む。長い手で俺たちの肩を抱えこんでそれそれは深いため息をついた。 「はぁ、退屈だゎ。王道転入生はなんか違ったし、生徒会✖️風紀もちょっとネタに出来ないほど仲悪くなっちゃったし、総寮長はお家騒動で気まずし、副総寮長はそもそもみないからねぇ」  ひんやりとした。寮長問題はちょっとつっつかれたくない。ただの倉木先輩の趣味だとしても。いや、責任問題だから言及されるべきなんだろうけどもう少し待ってほしいのが本音。 「倉木先輩マジ勇者っスね。生徒会と風紀、とくに生徒会長と風紀委員長、総寮長と副総寮長が仲を取り合わなくなってから、奈落におちる勢いで仲悪くなってるじゃないですか」 「そうよ。おかげでどの授業も憂鬱たらありゃしない」  倉木先輩は俺のほうに重心よせて、心底迷惑そうに言う。倉木先輩は3-Sクラス。Sクラスは家柄や成績、外部からの評価が優秀な人たちが集まるクラスだ。だから全てが優秀な生徒会長と風紀委員長が一緒になるのは当たり前のことだった。 「はぁ、王道転入生。また来ないかしら。王道生徒会も王道の取り巻きの一年生ぽいのもいるし、まだ可能性はあると思うよねぇ。ねぇ、灯季ちゃん」 「なぜ、僕に聞くんですか?」  倉木先輩はにっこり笑うって、俺に抱きついてくる。耳元で真っ赤な形のよい唇が動く。 「だって、貴方実質総寮長でしょ。副会長さんとともに呼ばれるわよ。きっと」  ああ、もうGヒーローでいいから、もう少しだけ時間をくれと泣きそうになった。そう嘆きたいほど、倉木先輩の悪魔みたいな囁きで俺の胃をギリギリ締めつけのだ。
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