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「アリス。それ僕が預かるよ。ここまでありがとう」
「いや、いいぜ。重いから届けてやるよ」
アリスは書類を得意げに持ち上げて言った。確かに書類の量はかなりある。美月の分もまとめて持っているのかかなりの厚みだ。
俺はそれを聞いて2つのファイルを2人に見せた。一つは黄の付箋が貼ったファイルもう一つピンクの付箋が貼ったファイル。生徒会宛と風紀宛だ。
「いや、寮の仕事を手伝ってもらえるのなら、このファイルを届けて欲しい」
俺は本題に入った。生徒会室と風紀室は寮に比べるとはるかに近し、ファイルも重くない。仕事としてはこっちの方が楽だ。
「恥ずかしい話、今日中に総寮長に提出しなきゃいけない書類を作り終えてないんだ。だから、早く寮に帰りたい。すまないが、こちらのファイルを生徒会と風紀に渡してくれないか?」
生徒会室と風紀室に行って寮に帰るまで40分くらいかかる。しかも、生徒会長と風紀委員長にダブルで当たれば小言で1時間は伸びるだろう。
総寮長に提出書類があるのは本当。ちなみに目の前の書類のことだ。提出日は今日だが、そもそも総寮長は学校にいないし、今その立場実質俺だしって少々嘘はある。
だが、今日貰った仕事を明日先生に出せもなかなかハードワークなので早く帰りたいも割とマジ。
「おう! まか「その必要はない」
低い声が廊下に響く。ふわりと香る上品の香り。その存在を認識したが最後、空間が歪むような圧がうまれる。俺は反射的に血の気が引いた。
切り揃えられた爪が美しく映える手が俺の顔を撫でるように通りすぎ、黄の付箋がついたファイルを持つ手首を掴まえる。背中に当たる温かな温度。
「話がある、東区寮長」
逃げるなよ? と耳元でささやかられた。見た目は甘いやりとり、実際は逃亡者確保。うわぁ、しくった。
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