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「忍!」
アリスはまるで大好きな人にあったかのように声を弾ませて後ろのものの名前をよぶ。カツラと眼鏡のせいで表情はあまり見えないが恋する乙女の反応そのものだ。このままだと俺が間男みたいな構図になる。
さて、ここで勘違いしてはいけないのはアリスは別に後ろにいる八重桜忍のことが好きだからこんなテンションになっているわけじゃない。
デフォで皆んなにこの対応をするのがこのアリスという王道転入生なのだ。天然発生したアイドルか何かなんだろう。
現実逃避もそこそこに、体に抱きついた八重桜忍こと生徒会長を引き剥がそうとする。
あまーく見える見た目でも恐怖との戦いだ。例えば、赤点とったテストを持っている状態で教育ママに抱きつかれていると想像して欲しい。わかるだろう? 愛や恋だと言う前に生存本能が悲鳴をあげている。
「生徒会長。大人しく渡しますから離してください」
「逃げるなと言ったはずだ。ファイルだけ渡して終わりだと思うな」
「すみませんが、仕事が詰まってます」
「ほう、この時期の寮の仕事は激務しないはずだが?」
「タイミングの問題でしょ。今日だけ忙しいんです」
「一週間前にも似たような話を聞いた」
生徒会長は手首をぱっと離して、俺の体を強制的に後ろに向かした。
しなやかな体に流れる前髪から覗く暗い瞳。空間に圧を与えるわりには、まるで静を擬人化したような上品さ。同じ制服を着てるとは思えないほど、その立ち姿は凛として美しかった。
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