眩しい夜明け、そのあとのこと

このラッキーを運命と呼んでも

　盆暮れ正月なんてない職場でよかった。やっぱおれと波鶴(はづ)ちゃんって、運命じゃね？
　日本中がテレビを見るこの時期。それぞれの局が視聴率を奪い合う大晦日。その激戦が始まる少し前、空が茜に染まる頃におれは職場の窓から渋谷方面を眺めた。
　１０９は見えないかな。マップアプリで調べてみたけど、どれか分からなかった。
　波鶴ちゃんは、大晦日から新年にかけての一晩を１０９の上で待機する。毎年恒例の警備作戦なんだそうだ。今年はカウントダウンがないから作戦の規模は縮小したものの、飛行術が使えて抜群の機動力を持つ波鶴ちゃんは作戦に動員された。
　できるだけ暖かくしてね、と言ったけど、寒いに決まってる。
　波鶴ちゃんにも盆暮れ正月はない。イベントで混雑するほど怪物の発生率は高まるから、長期休暇ほど繁忙期になる。おれと一緒だね。
　だから、おれと波鶴ちゃんってちょうどいいんじゃないかなって。
「ながやまー！　黄昏れるな！」
「つい……アモーレに思いを馳せてしまって……」
　正直に答えたら「惚気るな！」と笑われた。
　惚気くらい、いいじゃん。おれの自慢の、世界一かっこいい旦那さま。

　おれの部署は事務所全体のブランドを管理する仕事をしてるから、泊まり込みでタレントが失言しないか、炎上しないか見守る。炎上したら火消しに回る。危機管理部門は別にあって、そことの折衝がまた面倒で……。
　あ〜〜〜。失言しないでくれ〜〜〜。
　日本中がテレビを見るこの時期は、一番失言してほしくない時期でもある。生放送でやらかしたら手がつけられない。カップそばをすする音が響くフロアにも、緊張感が漂う。
　こんな泊まり込みが三が日の間続く。厳密には帰れる時間もあるんだけど、泊まった方が楽だから毎年そうしてきた。
　でも今年は、波鶴ちゃんの顔を見に帰ろうかな。初めて家に待っててくれる人がいるお正月だから。
　なんて思ったけど、波鶴ちゃんも三が日は初詣の警備に回されるんだよな〜〜……。

　うん。おれたちに盆暮れ正月はない。でもそのあとに楽しい代休が待っている！！
　休日を合わせて、雪の白川郷へ。おれはこう見えてロマンチストだから雪に覆われた合掌造りを楽しみにしている。波鶴ちゃんはそれよりも旅館の料理が気になるみたい。

　これがおれたちの新年で、ここから始めればいいんだ。

　職場の休み事情とか、掃除の頻度とか、ほかにも喧嘩のタネになることがカップルにはたくさんあって、おれと波鶴ちゃんは割と事情が一致する。まずまずラッキーな部類だと思う。こんなラッキーを「運命」と呼んだって、バチは当たらないでしょ？
　ウルトララッキーで繋がった波鶴ちゃんとの縁が、来年も続いて……。
　あ、もう今年か。
　とにかく、繋がってゆきますように。