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「あ、そうだ。お前SNSやってる? 交換しよ? 俺ずっとここにいるとは限らないし」
「は? 嫌だ」
あ、自称妖怪ってスマホ持ってんだ。
「えー! じゃあチャンネル登録だけでも」
「チャンネル登録ー!?」
うっかりデカい声出しちゃった。こいつ……動画で稼いでんの??
「ああ。自称妖怪がサバイバルして色々食う動画で、」
「登録者は!?」
「あともうちょいで10万人……ってお前テレビ関係の人!? 待って!? 俺めっちゃ地上波出たいんですよ!! 連絡先だけでも……動画見てもらうだけでもいいんで!!」
こいつ……おれに取り入ると得だと思ったら急に敬語になった。おもしろ〜。こういう図太い性格はなかなかいいかもな。波鶴ちゃんに喧嘩売ったのは気に入らないけど……。
「チャンネル名だけ聞いていい? あんま期待しないでよー? おれそんな判断する立場じゃないからさー」
「マジですか!!」
「顔出しはアリ? ナシ?」
「いけます!!」
あ、普通に狐面を取って素顔を見せてくれた。うーん、髪型次第ではミステリアス路線で……。
「お父さん。葉ちゃんが立派に仕事を……!」
「感慨深いなぁー」
親二人、呑気に親バカを始めた。おれの親だからしょうがない。
「仕事はしてるよ! 何年社会人やってると思ってんのよー。職種は言わないでよ?」
「はいはい」
チャンネル名だけ聞いて、ばいばーいって解散した。あの自称妖怪、おれにはきちんとお辞儀をした。図々しい奴だな。そういうとこが見込みあるなー。
「お父さん見て? おもしろいわよこの動画」
「この裏山にこんな食べるものがあるんだなー」
後部座席で親二人が盛り上がっている。
「葉ちゃん、あの妖怪、狩猟の免許も持ってるみたいよ?」
「はぁ!? それもう妖怪じゃなくね!?」
「あれにも戸籍はあるんだろうな……不老だと言えば戸籍を作るのは簡単だったから。私もそのクチだ」
運転席から窺う波鶴ちゃんの横顔は、少しだけ曇って見えた。
車を停めて、両親が家の鍵を開ける間に波鶴ちゃんの手をそっと撫でる。
「だいじょぶよ。波鶴ちゃんが怖いものも、おれは怖くないから。今日からふたりで生きるんだから」
おれを見上げて、きゅっと口を笑顔の形に結んで笑ってくれた。
「よろしく。葉介。私の愛しい人」
「うん。よろしくね」
戦闘狂で半妖の疑いもあるけど、むしろめっちゃ好きだし。おれがいるから波鶴ちゃんは大丈夫よ。
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