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(……俺が生きられるように考えてくれた。さっさと力を、俺の命を奪えば、もっとたくさんの人が救えるのに。きっと、他の神様たちもそう思ったんだ)
「澄王様は、奪ったんじゃないよ。俺が力をあげたんだ。自分から白虎に力を渡したいって願ったんだよ……」
目を瞠った公子は、両手で俺の頬を包んだ。ゆっくりと優しく口づけが交わされる。啄むように何度も何度も唇が重なって、まるでふやけてしまうんじゃないかと思う。
「……お前が愛しい。ユエ、お前の全てが欲しいと思う」
公子の言う「愛しい」は兄弟のような親愛じゃないんだろうか。俺にはもう力がないよ、と呟くと楽しそうに笑う。
「力があるからお前を愛しいと思ったわけじゃない。お前の魂はとても美しい。その清廉な輝きに惹かれた。必要なのは力だったが、欲しいものは違う」
「欲しいもの?」
「そうだ。神にも欲はある。お前の心と体、全てが欲しい」
美しい瞳を見ていると、胸がぎゅっと痛くなる。
公子の指が俺の指に触れ、包み込むようにそっと握りしめる。指と指とが重なり合い、熱くて熱くて仕方がない。涙が自然にあふれた。
「ユエ、なぜ泣く? 何がそんなに悲しい?」
「ゆびが……」
「指?」
「すごく熱いんだ。胸だって、どくんどくんってずっと痛いよ。でも、きっと澄王様とは違う」
「ユエ、私には違うとは思えない。お前と私は、そんなに違うだろうか?」
(神様と人が一緒なはずがない。例え人であっても、澄王様と俺のような只人では、天と地ほども違うのに)
そう思うと、涙は少しも止まらない。
「愛しいと思うから触れたいし、命を賭して守りたくなるのだ。それは神も人も変わりはしない」
公子は俺の手を、そっと自分の胸に当てた。
とくとくとく。まるで人のように早い胸の鼓動が手から伝わってくる。
「ちがわ……ない」
「そうだ、ユエ」
優しくゆっくりと諭されて、俺はようやくわかった。
「澄王様も俺も、相手を想う気持ちは変わらない……。俺はバイと同じように澄王様が大事で……好きだ」
公子は微笑んで、俺を強く抱きしめた。その瞳には確かに、懐かしい幼馴染の温もりがあった。
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