3.朱雀と青龍

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「……白虎が弱っていた時に為した封印は、残念ながら完全なものにはならなかったようだ。今度こそ、しっかりと奴らを封じ込めねばならぬ。其方の力を存分に発揮してもらわなくては」  「恐れながら、未だ白虎の力は戻らず……」  力なく呟く公子に、神々は揃って笑い出した。炎を身の内に持つ神が言う。 「それこそ、お前の心ひとつだろう。それとも、その腕に抱く子どものせいで、まだ心が決まらぬのか。いっそ、その稀なる気を全て吸い取ってしまおうか?」  一歩踏み出してくる神に脅えて、思わず公子の胸に強くしがみついた。俺の背を撫でる公子の手が止まる。  空気の中に二つの輝きが一気に立ち上った。俺の体を包むように広がる白光に対して、鳳凰の形になった真紅の炎が翼を広げる。  両者が激しくぶつかろうとするところを、龍の姿をとった水が一気に切り裂いた。眩しい光と共に消えた水と炎に、俺は瞬きをすることも出来なかった。  ――朱雀と青龍。都を護る守護神たちがここにいる。 「全く其方達は何をしているのか! 戦う相手が違うだろう!」  深い泉のように清涼な瞳を持つ神は、隣に立つ炎の神を睨みつけた。 「……いや、つい。面白くなってしまって」  炎の神が楽し気に笑えば、水の神はため息をついた。青く涼しい瞳が真っ直ぐに公子を捉える。 「澄王、あまり迷っている時間はないぞ。わかっているな? 玄武もそろそろ目覚めようとしている」  静かな神の声には有無を言わせぬ響きがあった。公子が頷くと、美しい神々の姿は幻のように消えた。  呆然としていると、公子は俺を抱いたまま目の前の扉を開けた。俺が公子の衣を掴んだまま離れなかったので、抱えたままで長椅子に座る。 「怖かったか。ユエの目には、全てが見えてしまうのだな」  震えながら頷くと、公子は困ったように微笑んだ。 「体の震えが止まらぬな。ユエが落ち着くまで、しばらくこうしていよう。……ああ、そうか」  頭の後ろを引き寄せられ、ふわりと唇が重なった。 (今の……) 「……まだ、落ち着かないのか? じゃあ、もう一度」  ゆっくりと抱きしめられて口づけられ、驚きのあまりに目を瞠る。いつのまにか、体の震えは止まっていた。
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