5.白虎の魂

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5.白虎の魂

「……ユエ、……ユエ」  優しい声が聞こえる。包み込むような声は、まるで今にも泣き出しそうだ。 (あれ、俺、生きてるのかな。それともここはもう黄泉なのかな)  目を開けると、公子が目の前にいた。 「澄王様」  俺は、公子の膝の上で眠っていた。驚いて起きようとすると、ぎゅっと強く抱きしめられる。 「俺、生きてる」 「……ありがとう。ユエのおかげで、我はあいつに勝つことが出来た」 「勝つって……。そういえば、東宮様は!」 「東宮も無事だ。ユエがあの時、我に力をくれたおかげで奴は力を失くした。後は他の邪神たちと共に、再び地の底に封じればいい」  ……ドォオオンンン。  大きな音と共に離宮が揺れる。  雷鳴が轟いているのに、窓から見える南の空は夕焼けのように赤い。こんな天気があるんだろうか。 「あれは青龍と朱雀が喜んでいるんだ。白虎が力を取り戻したと。玄武も目覚め、邪神たちの力はもはや塵も同然」  ――東は青龍。南は朱雀。   (神々は確か、澄王様を待っているって……) 「……ユエ、聞いておくれ。お前が幼馴染を探していたのは知っている。だが、バイはもう以前の姿ではない」 「えっ?」 「バイは我と一つになっている」 (……ひとつに?)  公子は、俺の手を取って静かに語った。  ……その昔、封印されていた四凶と呼ばれる邪神たちが目覚め、都の西の門を壊した。まずは邪気を祓う力の大きい白虎を倒すべく、魂を引き裂いたのだ。   他の守護神たちが邪神を封じた時には、白虎は弱り切っていた。白虎の魂の半分は、己を癒すための地を求めて彷徨い、もう半分は人々を見守るために都に残った。  都から遠く離れた地に、半魂は清浄な麒麟の力を宿す里を見つけた。里に留まって少しずつ回復するうちに、ひときわ清浄な魂を持つ子どもが生まれる。麒麟の恵みを受けた稀子に魅かれて、半魂は人の形をとることにした。 「人の形って……。バイは、人じゃなかったの?」 「ああ。お前と一緒に過ごすために人の形を模したが、人ではない。神獣である白虎の半魂だ」 「じゃ、じゃあ澄王様は?」 「都に残った半魂だ。離れた半魂が人の形を取ろうとした時、同じように人になろうとする命の中に引き寄せられた。それが帝の妃の胎児だった」  公子は、俺の髪を優しく撫でた。  ――バイと澄王様は、元は一つの魂。白虎の魂が、二つに分かれた姿。
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