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「成長したバイは、八の満月の日に、我という実体のある都へと帰った。バイが都を空けている間に、封じたはずの邪神たちが動き出していたのだ。戻らぬわけにはいかなかった」
(あんなに探していたバイはもう、いなかった。いや、最初から本来の実体がなかっただなんて)
「巫婆さまが……バイはずっと俺を守るって言ったのに」
「そうだ、ようやく一つの魂になった我は力を得て、お前をいつも守ることができるようになった。お前の側にいた白狼も、この手で作り出した」
バイがいなくなった後、里に現れた不思議な白狼を、巫婆様は神の御使いだと言った。
涙が溢れて止まらず、俺は公子の腕の中で声をあげて泣いた。公子の手が、優しく俺の背を撫でる。
「お前が泣くと、我も、我の中のバイも泣く。我らは二つに分かれていた時も一つの魂だった。どちらもお前のことを愛しく思っている」
「……どちらも?」
「そうだ。我も、バイも。白虎の魂がお前を欲しているのだ」
公子は涙で濡れた俺の頬を指の背で拭う。俺は、はっとした。
「澄王様は、バイは、もしかして……、ずっと俺の力が必要だったの?」
「……」
「だって、俺、他の神様たちの気は、すぐにわかったよ。でも、澄王様のことはわからなかった。それはもしかして、神様としての力が足りなかったから?」
公子は、大きく息をついて頷いた。
「引き裂かれた半魂であるバイの力は、まだ完全ではなかった。そのために、里にいた時は清浄なユエの気を自然に吸い上げてしまっていたんだ。ユエは知らず力を渡していた。……バイと一緒にいると、すぐに眠くなっていただろう?」
「え? あれは、俺が小さくて、体力がなかったからじゃ」
「違う。ユエの持つ麒麟の力で、バイは魂を癒やし、力を蓄えていた。だから、お前の体はすぐに休息を求めたんだ」
あたたかなバイの膝。いつも自分の髪を優しく撫でてくれた幼馴染。
「希少なユエの力を全てもらわねば、白虎の力は回復しない。でも、そうしたらお前には生きる力……命すら、なくなってしまうかもしれない。そう思うと、……どうしても全ての力を奪うことは出来なかった」
俺を抱きしめる力が強くなる。
もっと他に邪神を封じ込める方法がないかと探しても見つからなかった。そう呟く公子の声は暗い。
「すまない、ユエ。それでも結局、お前の力を奪ってしまった」
後悔が滲んだ言葉を聞いて、俺の頬には涙が幾つもこぼれ落ちた。
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