2.消えた幼馴染

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 巫婆様は皆に言った。これは、我らの神が地上に遣わされた者……稀なる子。だが、いたずらに稀子の持つ天の気を使い続ければ、この子は早世するだろうと。俺は田畑の手伝いよりも巫婆様の元に呼ばれることが多くなった。生まれ持った力を少しずつ大切に使い、人の目から隠すことを学んだ。 「いいか、ユエ。お前の『命』はこれだ」  長は一枚の紙を見せた。白い紙に書かれたそれを目にした途端、胸の中心に刻まれるように、一つの文字が俺の中に入る。紙は空中に燃え上がって消え、長と巫婆様以外に俺の命を知る者はいない。  長の家を出る時に、巫婆様は小さな声で言った。 「ユエよ、忘れるな。バイはどんな時もお前を守る」 「うん! おれ、バイとずっといっしょにいる!」  巫婆様は黙って俺を抱きしめた。その力がいつもよりもずっと強くて不思議だった。  次の日、俺はバイを見つけてすぐに昨日の晩の話をした。やはり、眠ってしまった俺を家まで運んでくれたのはバイだった。 「ねえ、バイ。ばばさまがね、バイは、おれを……まもってくれるんだって。おれ、バイとずっといっしょにいたい」 「……おれも」  満面の笑顔でバイが笑う。胸の中が、ほこほことあたたかくなる。巫婆様の言葉に嘘はない。俺たちは小さな手を握りしめて、一緒にいると約束した。 「バイ!」  闇の中、がばりと身を起こせば、一人きりだった。頬が冷たいと思ったのは、枕を自分の涙で濡らしていたからだ。大きく息をついても、周りには誰もいない。  俺は今、懐かしい里からは遠く、邪気に満ちた都の中にいる。  大事な幼馴染は八の祥を迎えた後、里から消えてしまった。どこに行ったのか、里中走り回っても見つからない。巫婆様に聞いても答えは得られず、誰もバイの行方を知らなかった。俺はわんわん泣いた。山々の間に、バイを呼ぶ自分の声が木霊になって響いた。  十六の成人を迎えた日、俺は巫婆様と長に頭を下げた。頭を床にこすりつけ、都にバイを探しに行きたいと願った。  俺は毎朝、村と村人のこれからを、清浄な水が湧く泉で占う。鏡のように澄んだ泉に確かに映ったのだ。幼いバイと、成長したバイと思われる後ろ姿が。二つがゆらめきながら重なった向こうに見えたのは広大な都だった。    ――ああ、バイはきっと都にいる。
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