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巫婆様は俺の頭を撫でて、「これも定め」と呟いた。巫婆様は旅立ちに反対しなかった。俺と同じように水鏡に向かい、じっと何かを読み取った。都の東門に男が立つから、そこに行けと言う。
巫婆様が了承すれば里に反対出来る者はいない。稀子を外に出すことに里の皆は動揺したが、元気でと見送ってくれた。果たして、言われた通りに一人の従者が待っていた。彼に連れていかれた先が、皇帝の弟である公子……澄王様の広大な離宮だったのだ。
美しい公子は言った。
「其方の里には縁がある。ここに部屋を与える代わりに、我の為に働いてほしい」
あれから半年。俺は白狼と共に都に漂う気や鬼の様子を見回っていた。ただ、ここにいればいるほど、自分の体が辛く重くなっていく。
「……バイ。ねえ、どこにいるの?」
俺の呟きは、闇の中に静かに飲み込まれて消えた。
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