3.朱雀と青龍

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「大丈夫ですか? お怪我は?」 「……お、狼!」 「ああ、この子は大丈夫」 「其方……。凶暴な狼も馴らすことが出来るのだな? 侍女たちが、叔父上が力の強い巫者を迎えたと言っていた」 「叔父上って。……もしかして、貴方は」  きりりとした眉に強い瞳の子ども。この子には王者の気が見える。 「我は太子だ。母上まで病に伏して、皆が祈りを捧げている。其方なら、この都の悪鬼を祓えるのか?」  決然とした顔だった。太子は帝の後継者だ。王宮の東に宮を持つので、通称として東宮と呼ばれている。幼いながらも母君を助け、都を何とかしたいと思う心に打たれる。 「何かお力になれればいいのですが、私は離宮を出ることができません。……そうだ。御手に触れてもよろしいですか?」 「手?」  小さな柔らかい手が差し出される。俺は東宮の手の平の中心に、そっと右手の人差し指で触れた。指先から出た淡い光が小さな丸い珠になる。東宮が、大きな瞳を瞠って手の中で輝く珠を見た。 「これは穢れを祓います。母君様の御体を楽にすることができましょう。大事に持ち帰って、そっと胸の上に置いてください。そして、ここに来られたことを誰にも言ってはなりません」  東宮は何度もこくこくと頷いた。両手で手の中の珠を大事に大事に抱えている。白狼に東宮を乗せて離宮の端まで来ると、東宮は白狼の背から滑り降りた。 「もう一人で戻れる。其方、名は?」 「ユエと申します」 「ユエ、ありがとう。また会おう」  きらきらした瞳の東宮が大人のようなことを言うのが可愛い。そっと木陰から見ていると、探し回っていたらしい人々が、東宮を取り囲むのが見えた。 (……無事に母君の元に届けられますように)  里にいた時も、巫婆様と共に里人の穢れを祓ったことが何度もあった。ただ、都では穢れが多すぎてきりがない。  自室に近づくにつれ、体がびりびりと震える。離れていても漂ってくるのは、神気だ。  部屋の前に、二人の貴人が立っている。俺を眺めて明らかに品定めをしているのがわかった。  片方はすっと通った眉に凛々しい面差しで、上背も厚みもある体をしている。もう片方は女性的ともいえる華やかな顔立ちだが、鍛えられた体であることは服の上からも明らかだ。
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