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どちらも見目麗しく、女官たちの心を騒がせることは間違いない。だが、俺の心を騒がせているのはそんな理由ではなかった。俺には、彼らの真の姿が……見えたのだ。
「これが澄王の囲う巫者か? まだ子どものようだが」
思わず伏せて礼をすれば、一人が屈みこんでくる。俺の顎を指でとらえて上向かせたのは、華やかな顔立ちの人ならぬ、神だ。目が合えば、瞳の奥に金色の炎が見えた。全てを焼き尽くし浄化する炎は絢爛たる輝きを持つ。
「おや、お前には我らの姿が見えているようだな。これは面白い」
輝く神を前にして、体は震えるばかりだ。炎の気をまともに受け止めるには、自分の器は小さすぎる。
(怖い、怖い、怖い)
「震えている姿も可愛らしいな。……ずいぶんとまた、清涼な美しい気をまとっている」
目尻から涙が溢れる。怖くて声も出せなかった。
(……たすけて)
鼻が触れ合い唇が重なりそうになった時だった。体が宙にふわりと浮き上がった。
「……戯れはその位になさるがいい」
えっと思った時には、広い胸の中に抱きかかえられていた。顔を上げれば公子が眉を上げて炎の神を睨んでいる。神は、ふんと鼻で笑った。
「澄王。その子は麒麟に繋がる清廉な気を持っている。心弱いところも、あれとよく似ているがな。どこで見つけてきた?」
「これは人の子ですよ。神を前に平常でいられる方がおかしいでしょう。只人ですから、お気になさらず」
「おかしなことを言う。本当にただの人ならば、何故わざわざお前が離宮に囲ってまで守る必要がある?」
くすくすと笑いながら神が近寄ると、体が勝手に震える。公子の大きな手が、俺を守るようにしっかりと抱きとめた。慰めるように背を優しく撫でられて、ほっと息をつく。
「からかうのはもう、お止めください。この子を怯えさせるために、ここまでいらしたのですか?」
公子の低い声とは裏腹に、楽しそうな声が部屋に響く。
「いや、元々はお前を探していたんだ。大事な知らせがある。地の底に封じたはずの邪神どもがな、地上に出ようと蠢く気配がするぞ」
ずっと傍らで黙っていた神も、続けて口を開いた。
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