1.守護なき都

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1.守護なき都

 ざわりとうごめく闇の気配がした。  雲間に隠れていた月が、一瞬だけ姿を現す。地上に冴え冴えとした光が投げかけられ、ぴくりとも動かない人々を映し出した。  体格のいい男たちが大路に何人も倒れている。戦いが繰り広げられた様子はなく、一瞬で勝敗は決したのだろう。  体がぶるりと震えた。 (邪鬼に気を全て吸い取られている。何度見ても嫌だ……)  くぅん、と白狼が自分に顔を摺り寄せてくる。体高が大人の背の半分以上もある彼は、こちらの心の動きに敏感だ。慰めてくれているのがわかって、小さく息をついた。  いつからか、都には悪鬼たちが潜んでいる。彼らは闇に紛れて現れるので、都人は陽が落ちた後は決して外に出ない。白狼と共に都の四つの門を巡ったけれど、一番闇が濃いのは西だ。  風に流された雲が月を覆い、再び辺りは闇に閉ざされる。鬼たちがざわざわと動き始める気配を感じた。 「急ごう。もう帰らなくちゃ」  自分を励ますように言い、白狼の背に飛び乗る。波のように続く都の屋根瓦の上を飛び、俺たちは風のように宮殿を目指した。  ――東に青龍、西に白虎、南に朱雀、北に玄武。王朝の始めより、四方に神奉りて守護と成せ。  遥か昔から都に伝わる言葉を知らぬ者はいない。都の東西南北の門には神獣たちが祀られ、邪神や悪鬼たちから常に皇帝の座す地を守護している……はずだった。  近年、都には人の気を吸い取り死肉を喰らう悪鬼たちが夜ごとに現れていた。宮中では高貴な方々が次々に病に伏していく。都にはひっそりと一つの噂が流れた。  ――当代の帝には四神揃っての守りがない、と。
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