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7
近くにトリスタンの生母が残した別宅が建てられている。今はトリスタンが管理しているそこへ、レアは連れ込まれた。
ナハールに盛られた薬は性行為をするか、時間経過でしか発情を治められないらしい。どうやらそれを使って、さまざまなオメガを貶めていたようであった。
しかしナハールの尻尾はなかなか掴めず、困っていた時、ナハールの関係者がハルスウェル子爵の屋敷に出入りしていたことを突き止め、今日のことが明るみに出たらしい。
それで、レアが標的だと気がついた王太子とトリスタンは急いで準備をして、レアを救出しに来たらしかった。
「君、話の半分も聞いてないだろ」
余裕のなさそうなトリスタンの声が面白い。
説明をされたが、トリスタンの言葉通り、レアの頭には全く入っていなかった。
「貴方が私を助けてくれた。それだけわかれば十分です、だから」
レアは早く、と掠れた声で、トリスタンを誘う。
荒々しくベッドに押し倒され、レアは期待だけでもうどうにかなりそうだ。
「この前は奥にくれなかったから……」
恨めしそうに言うと、トリスタンは困ったような顔をする。
「発情期だからって言って、なし崩しに抱けば君は自分で自分を許さないだろう。この前のあれだけでも休職するぐらい、思い詰めていたくせに……、僕があの時、どれだけ我慢していたか……」
それも道中、幾度となく聞いた。
「だから今日は我慢しないんでしょう? んっ」
いきなり奪うようなキスをされた。舌を差し出せば柔く噛みつかれる。思いもよらず、歯が鋭い。驚いて、舌を引っ込ませればすぐに追いかけられ、更に深く絡みつかれる。
「あっ」
唇が外れる。身体を起こしたトリスタンが男らしく上衣を脱ぎ捨てたのだ。
褐色の胸や腹は男らしく鍛えており、無駄な肉などないように見えた。
トリスタンの肌は初めて見た。恥ずかしくなり、かぁーっと顔に熱が集まってくる。
「あ、その……、えっと」
「どうしたの? さっきまで早く、とか急かしてたのに」
「私とは全然違うなって……」
「ん? なら、レアの身体も見せてもらおう」
鼻歌でも歌いそうなぐらい陽気な声を出し、トリスタンはレアの服を脱がしにかかってくる。
今日はワイシャツと靴下だけ身につける、ということはしないらしい。
レアは自分で脱ぎます、と言ったが、聞き入れられなかった。
「綺麗な肌だな、まるで新雪みたいだ」
「んっ」
ナハールによって破かれたワイシャツを剥ぎ取られる。
そして、平らな胸といくら鍛えてもこれ以上筋肉のつかないなだらかな腹に触れられ、レアは身を捩った。
胸元から腹へと指を滑らされ、レアは恥ずかしくなる。
「見ていて、楽しい身体ではないでしょう? 貴方のように筋肉はついていませんし……」
「これぐらいがいい」
そっと耳元に唇が寄せられる。
「抱き心地がいいから、ね?」
そう言うとトリスタンは押し倒したレアの身体中にキスを降り注ぎ始めた。
額に優しく唇を押し当てたかと思うと、首筋に吸いつかれる。ちり、とした痛みが走った。どうやらそこに吸い付いたらしい。
「あ、跡が……、あぁっ」
抗議は最後まで言うことができなかった。トリスタンが胸に吸い付いたからだ。
自分の甲高い声に驚き、レアは両手で口元を抑えた。
しかしトリスタンは、今度は指でそこをなぶってくる。
「可愛い色の乳首だな……、固くなっている」
「ん、ふ、ぅう、んーっ」
発情期はそこにシャツが擦れるだけでも快感になってしまう。そんなところを指でつままれたり、押しつぶされたりするのだ。
びりり、とした甘苦しい快感はどんどん腰に溜まっていく。胸への刺激だけで自然と腰が揺れ、レアは顔を赤らめた。このままでは乳首への刺激だけで達してしまうだろう。
「やだ、もう、もうイっちゃ……」
「いいよ、可愛いところ、僕に見せて」
笑いながらトリスタンはレアの胸に唇を寄せる。そしてそのまま痛いくらい勃ち上がっている乳首をまた口に含んだ。
「あぁっ」
肉厚な舌で固くしこったそこを舐め上げられた瞬間、我慢していた熱が弾ける。
「あ、あぁっ、はぁ」
腰が浮き、がくがくと揺れた。そしてレア自身がトリスタンの腹に擦られ、その刺激でも感じてしまう。
白濁が腹の上に撒き散らされていた。勢いよく飛び出したそれはトリスタンの腹まで汚しているのが見える。
「どう? 少しは落ち着いたかい……ってまだだね、まだフェロモンが濃い」
達した余韻がまだ抜けず、しかし欲しいものがまだ与えられていないため、満足していない。
「私はこんなに、なっているのに……、貴方は随分と、余裕だ……」
奥が切なくてたまらない。一度射精してもレア自身はまだ満足できないのか、またすぐに勃起し、先走りを零している。
トリスタンはどうだろう。ここからは見えない。
「余裕なんかないさ……、僕だってあの時からずっとお預けみたいなものなんだから。ほらこっちおいで」
腕を取られ、向かい合わせになる。前と同じだ。
いつの間にかトリスタンも下衣を脱ぎ去っていたらしく、裸になっていた。
お互い、何も身につけないまま、裸で向き合っている。
「ほら……、もう余裕なんかないだろ」
思わず湧いてきた唾を飲み込んでしまった。初めて見るトリスタン自身は痛いくらいに張り詰めている。それはとても逞しく、立派な様相を呈していた。
先端はカサが張り出して、先走りで濡れている。幹も太く、浮き出た血管が凶悪そうに走り、トリスタンがどれだけ興奮しているかを暗に伝えていた。
「これは……お辛いのでは……?」
手で触れると、熱くてびっくりした。思わず手を引っ込めようとすると、そのまま縫い止められる。
「っ、そのまま。ほら君のも」
「あ、や……」
レア自身もトリスタンの手のひらに包まれる。
二人は互いの自身同士を合わせ、一緒に握った。
色濃く長大なトリスタン自身と、色素も薄く、小ぶりなレア自身が並べられる。
精液と先走りに塗れている二つの陰茎が揃って二人の手の中にある光景はあまりにも淫らで、レアは恥ずかしくて見ていられなかった。
「ほら、手を動かして。僕も一緒にするから」
二つの陰茎を握るレアの手をトリスタンが包み込み、上下に動かされる。
ぬるぬるとした感触がいやらしい。まるで自慰をしているようだが、レアにはトリスタンの熱が当たっている。
「っ……、く」
「ひぁっ」
今度はふたりで達することができた。
嬉しくて、肉体的な満足感よりも精神的な満足感が満たされる。
レアばかりではなく、トリスタンのことも気持ちよくすることができたのだ。
達する時のトリスタンの堪えたような表情がとても扇情的で思わずレアは、じっと見つめてしまう。
「ちょっとはやかったかな、恥ずかしいな」 笑いながら、照れている顔もかっこよくて、レアはまたドキドキしてきた。
するといきなりトリスタンは真剣な表情でレアを見つめる。
「今日、君を僕の番にする」
質問ではない。断言された。もうこれは決定事項なのだ。
「……はい」
目を伏せた。唇が重なる。歓喜と期待とで疼く後孔に指が這わされ、レアは身体を押し付けた。
「ん、ぁ」
「とろとろだ、前よりも柔らかいな」
いきなり指を二本も、と驚くが、苦しくはない。愛液でしとどに濡れ、指が動かされるたびに大きく水音が鳴った。
今日はもう我慢しなくてもいい、やっと奥にトリスタン自身が与えられるのかと思うと、身体の強張りもなかった。安心して身を任せられる。
「も、もう……、欲し、んっ」
「まだだ、ちゃんと解さないと。初めてだろう? 怪我しちゃうよ」
そう言われても我慢できそうにない。
レアはトリスタン自身をつかんだ。
「あ、こら」
「ゆ、指も気持ちいいけど……、んぁっ、これで……奥、来てぇ……」
「ああもうっ」
再び勃起しているトリスタン自身を意味深に触りながら、腰を揺らして縋りつけば、荒々しく、引き倒される。
身体をひっくり返され、レアはうつ伏せになった。
「腰、上げて」
「ん、はい……」
四つん這いになり、トリスタンに尻を向けている。
トリスタンの眼下には愛液で濡れそぼり、真っ赤にひくつくレアの後孔が丸見えになっているだろう。
見られている、と思うと、またそこが濡れた。
しかし今は、恥ずかしさよりも嬉しさの方が勝った。ようやくふたりは本懐を遂げられる。
熱いものが入り口にあてがわれ、レアはシーツを握りしめる。
「あ、あぁー、おっき……、あぁっ、あっ」
ゆっくりと貫かれる。最奥まで達した時、嬉しくて軽くイってしまった。白濁が漏れ、シーツを汚す。
痛みはなかった。ただ圧迫感で息がしづらく、ふうふうと息をつく。
「動くよ」
トリスタンの宣言にこくこく、と首を縦に振った。声を出す余裕がない。
「あっ」
また奥を突かれ、身体が揺れた。最初から容赦がない。一度達してもあれだけ勃起させていたのだから、トリスタンも相当我慢していたのだろう。
揺さぶられ、遠慮なく、奥を突かれる。その度にまた快感が蓄積されていく。
もうわけがわからなくなっていた。
「あ、あぁっ、あ、あっ、あーっ」
「レア、レアっ」
ただ名前を呼ばれて、それに返事をする前に身体に快楽を叩き込まれる。
うなじが疼いた。そこへトリスタンの唇がよせられ、思い切り吸われる。
「あ、か、噛んで……、お願いっ」
トリスタンが噛みやすいよう、首を傾け、うなじを晒す。
舌が這わされ、次に前歯が当たる。
「レア、愛している」
「あ、んーっ」
つぷりと歯が肌に食い込む。身体の熱量が一気に上がり、奥で弾けた。
「あ、あ、あ」
まるで内部から作り替えられていくかのような感覚だ。じゅんと奥が濡れるのがわかる。少し怖いような気もした。けれども嫌な感覚ではない。
身体がついていかなくて、意識を手放しそうになった。
その時、プルメリアの香りが鼻先を掠めた。
遠のいた意識が再び戻ってくる。
もうレアにはトリスタンがいる。怖いものも何もない。
「ト、トリスタン」
「レア」
不安になってトリスタンの名前を呼べば、後ろから手を握られ、耳元で名前を囁かれる。
「これから一生、君を愛し、守り抜くと誓うよ」
「私ですよ、貴方を守るのは。だって」
私は貴方の騎士だから、と囁くと、ふふ、と笑われた。ふたりはキスを交わす。
もうとっくに薬の効用は切れていた。しかしまだ身体には熱が燻っている。その熱が覚めるまでふたりは愛を交わし合った。
輝くような真白い衣装はいっそ神々しいほどだ。ひらひらと揺れるマントはどの角度から見ても美しい。ブーツも磨き上げられ、歩くたびにこつこつと軽快な音を立てた。
レアはそれらを翻しながら、第六王子宮へと急いでいる。
この冬からレアは白百合の騎士に任命された。そして、今日が初めて、白百合の騎士として仕事をする日である。
喜び勇んで、王妃様の元へ向かい、初任務を王妃様直々に言い渡された。
「トリスタンのところに紅茶を取りに行ってくれないかしら? あの子に頼んであるのよ」
なぜ私が、などと言えるわけもなく、素直にはい、と従って、トリスタンのところへと向かっている途中だ。
レアが白百合の騎士に選ばれて、再三その真っ白な団服を着たところを見せて欲しい、と恋人で番のトリスタンに言われていた。しかし恥ずかしくて断っていたのだ。
(絶対、会わずに帰ってやる)
第六王子宮に届いた荷物をどこで、誰が管理しているか、レアは知っていた。
だからそこへ行って、担当の侍女に頼めばいい。
第六王子宮に着いた。実は昨夜もここにいた。トリスタンが離してくれなかったのだ。
何だか昨夜のことを思い出しそうになり、届いた荷物が保管されている部屋へ早足で向かう。
「もし、ハルスウェルだ。王妃様からの命で荷物を取りに参った」
「どうぞ」
促され、レアは部屋に足を踏み入れる。
「すまない、皇国産の紅茶は」
「これかな?」
レアは驚く。部屋の中にトリスタンがいたからだ。
「なっ! やはり王妃様とグルだったのですね! おかしいと思ったのです!」
「そう怒らないでくれ、君の機嫌が悪いと僕はどうしたらいいのかわからなくなるんだよ」
ならば、レアの機嫌を損ねるようなことをしなければいい。
トリスタンが近づいてくる。レアはきつい視線を向けた。
「よく似合っている……、やはり君は白百合の騎士にふさわしいよ」
「義父さんには『衣装に着られているみたいだ』って笑われましたよ」
「な、他の男には見せたのか……」
「他の男って……、うちの義父さんですよ」
「それでも妬けるさ、君の初めてもこれからも全部欲しいから」
トリスタンがさらに迫ってくる。甘えた顔に絆されそうになり、レアは赤くなった顔に気づかれないように顔を背けた。
「そんなことを言っても、絆されませんよ。紅茶を渡してください」
「仕方ない、ほらこれだよ」
差し出された紅茶を受け取るため、手を差し出す。
レアはここで疑うべきだったのだ。トリスタンが素直に紅茶を渡してきたことに。
「あっ」
腕を掴まれ、引き寄せられる。そのままバランスを崩し、トリスタンの腕の中に収まってしまった。
「ちょっと、トリスタン、ん」
抗議しようと上を見上げると、すぐさま唇を奪われる。
(キスしたいなら言ってくれたら良いのに)
あやすように手をさすられた。怒る気も失せてくる。
レアは、自分の手をさするトリスタンの手を逆に捕まえ、自分から指を絡ませる。
穏やかな風が吹く。今日は快晴だ。しかし気温は低く、そろそろ雪が降るかもしれない、と言われていた。
季節外れのプルメリアの甘い香りが漂ってきて、レアはしばらくの間、トリスタンとのキスに酔いしれた。
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