魔肉祭り

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魔肉祭り

 パーカスは何か考え事ばかりしている。昨日すっかり元気になって朝起きてきたパーカスに、青龍の騎士が夜やって来た事を僕が報告してからだ。もしかして言わない方が良かったのだろうか。  「…バルトが来たのか?青龍の騎士の?」 朝食の手を止めて、パーカスは僕を見つめた。 「うん。ちかくちたって。んー、ぱーかちゅ、よろちく?おかちのちとねー。ありがとちた。」 僕が説明すると、ますます眉を顰めた。僕は首を傾げた。どうしてパーカスがこんなに不機嫌になったのか分からなかった。けれど気にする暇もなくその日は魔肉祭りだったので、僕は竜化したパーカスの手の中に乗って街に繰り出した。 飛び立つ時と、降りる時はどうしても息が止まる様なゾクゾクを感じて、楽しい様な、怖い様な気分だ。  すっかり始まっていた魔肉祭りは、街を上げての収穫祭の様で、あちこちの屋台の肉が無料で食べ放題だった。噂を聞きつけた周辺の小さな町々からも獣人がやって来て、彼らは無料のお肉と引き換えに野菜や果物を格安で売ってくれていた。 アイスの実と僕がこっそり呼んでいる例のノラの実がないかとキョロキョロ探したけれど、見当たらなかった。あんなに美味しいから、きっと人気があるんだろう。 丁度そこに熊獣人のダグラスがやって来て、僕とパーカスに声を掛けて来た。  「よお、来てくれたか。隠者様とテディには、特別な席を用意してあるから、あっちに一緒に来てくれ。」 僕がダグラスの隣にいる美人の猫科の青年をじっと見上げていると、ダグラスはニヤリと笑って言った。 「なんだ、テディ。うちの奥さんに惚れるなよ?美人の上に強い自慢の奥さんなんだぜ?シャル、こっちは隠者様の可愛子ちゃんのテディだ。会いたがってたろ?」 するとシャルと呼ばれた20代に見える青年が優しく微笑んで僕の頭を撫でた。 「こんにちは。私はシャルだ。仲良くしてね、テディ。」  僕は思わずシャルの美人ぶりにボンヤリしてしまった。おまけに良い匂いがする。この人があの豪快なダグラスの奥さん?さすがやり手の熊獣人だ。僕は少しはにかみながら言った。 「…こにちは。てでぃでちゅ。」 パーカスとダグラスが面白そうに笑う中、僕はパーカスに抱っこしてもらって大きな天幕の下に移動した。その席は明らかにスペシャルな席だった。美味しそうな料理が沢山並べられていて、中央には花まで飾られていた。  パーカスは兎も角、僕がここに居て良いのかな。子供が居なくて居心地が悪いこの席で、僕は周囲を見回した。街の重要人物がこの席につくとしたら、街の長は誰なんだろう。でもその疑問はパーカスとダグラスの話を聞いていたら直ぐに解決した。 「この街の領主としては、隠者様に近くに住んでもらって随分心強いよ。勿論あの大型魔物みたいな事は滅多にないけどな。それでも獣人ではどうしようもない事はあるからなぁ。王国騎士団に頼むとしてもどうしたって、ここは遠いだろう?」 ダグラスが領主なのか。へー。まぁ何でも屋というか、手広く事業展開してるやり手だと考えたら納得できるものがあるな。  「‥そう言えば、遠征で王国騎士団が近くに来ていたみたいじゃが、ダグラス何か聞いておるか?」 パーカスの問いかけに、ダグラスは顔を顰めて言った。 「ああ、近くと言っても山5つ向こうだ。タイミング的には少し遅くてな、討伐が1日遅れたらこっちの被害が何倍になるかを考えると待ってられなかったから、応援は頼まなかったんだ。隠者様には無理させたかい?」 パーカスは大丈夫だと言いながら、僕をじっと見つめて何か言いたげだった。何だろう。  結局僕はチーターらしき獣人のシャルに甘やかされて、楽しい時間を過ごした。シャルは良い匂いがするだけじゃなくて、とっても優しい。僕たちがイチャイチャしていると、嫉妬したのかマッチョなダグラスが顔を突き出して邪魔して来た。 「おい、シャル。俺にも食べさせてくれよ。まったくちびっこだからって、給餌行為は妬けるな。」 僕はやれやれと思って、ダグラスに大きな肉の塊を差し出した。 「あーん。だぐらちゅ、あーん。」 途端に皆がどっと笑った。本当いい年して甘えん坊のダグラスはしょうがないよね。  散々食べた僕たちがそろそろ帰ろうとすると、ダグラスが思い出した様に僕を呼び止めた。 「そうだ、可愛子ちゃん。魔石を見つけたお礼を用意しておいたぞ?シシ魔物はいつも脚は捨てちまうから、お前さんのお陰で貴重な魔石を失わずに済んだんだ。 それにあのまま土に戻したら、あの魔石を他の魔物が手に入れて、また手強い大型魔物にならないとも限らなかったからな。お前さんは未来のこの街を救ったんだ。 ほら、これ好物なんだろう?これは一年で一度しか川に流れてこない貴重な物なんだ。王様だって滅多には食えんぞ。この街にはなぜか沢山流れてくるからなぁ。だが、もうこれで最後だ。味わって食えよ?」  そう言ってパーカスに渡されたのは、布袋いっぱいのノラの実だった。 「きゃわ~!あいちゅのみら~!ありがと、だぐらちゅ!」 ダグラスはアイスの実?と首を傾げていたけど、僕がノラの実の袋を大事に抱えてパーカスに抱きあげられると、ご機嫌で見送ってくれた。 「ぱーかちゅ、こえ、とくべちゅ?」 するとパーカスは頷いて言った。 「ああ。川の流れが速くて、上手く掬える獣人が少ないからの。ウチにあったのは、たまたま私が竜化して飛んでいる時に、眼下の川に流れているのを足で掬ったものじゃ。確かに王都じゃ王族や高位貴族しか食べられないかもしれないのう。」  僕はそんな貴重な物だと思わなくて、もう一度袋の中を覗き込んだ。多分10個以上は入っているだろう。僕はパーカスに頼んだ。 「ぱーかちゅ、じぇちーとおにぃたんにあげう。いっちょにおるちゅばん、ありあとちゅる!」 そんな僕をパーカスは優しく微笑んで見つめた。それから僕らはジェシー達を探すと、二人にひとつずつ分けてあげた。二人とも凄く喜んでくれたから、やっぱりみんなアイスの実が好きなんだと思った。  結局朝からパーカスの機嫌が悪い気がしたのは気のせいだったみたいだ。家に戻ると、早速保管箱にノラの実をゴロゴロ入れた僕は、これを大事に食べようと決心していた。 機嫌は治ったものの、パーカスはお菓子の定期便と一緒に付いてたカードを並べて眺めていた。僕がそのカードを隣で眺めていると、パーカスは僕に尋ねた。 「…テディは青龍の騎士がまだ嫌いか?」 僕はカードの宛名が僕の名前なのかとその文字を指でなぞりながら首を振った。 「ちゅき。おいちぃおかち、ちゅきらから。」 するとため息をついたパーカスがクスッと笑って、僕の頭を撫でて呟いた。 「テディは簡単だな?…まぁ、まだまだ先の話かの。」
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