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3.疑惑
家に着いてから、なんとか車の荷物を玄関まで運び、山積みにしたまま放置した。
汗を拭いながら、ノートパソコンの電源を入れる。
ドライブレコーダーから抜き取ったSDカードをパソコンにセットする。
録画機能がきちんと働いていれば、先週のドライブ記録も確認できるはずだ。
いくつかの動画ファイルを開き、映像の日付と風景を照らし合わせた。
我が家はお互い通勤に車を使用しない。
そのため、先々週の映像も先週の映像も消されずに残っていた。
先週の日付の映像には、ゴルフ場の看板も建物も映っていなかった。
知らない住宅街で一旦停止したあと発進し、高速道路に乗っていた。
そして広い駐車場で車は停まった。はっきりとは見えなかったが、たぶん県外にあるアウトレットモールではないかと推測する。
(ゴルフに行くっていうのは嘘だった……)
私はSDカードをドライブレコーダーに戻し、ため息をついた。
(さて、どうしたものか…………)
***
休日出勤から帰ってきた卓也は、いつものように着替えてイスに座り、夕飯を急かした。
「まだ? 今日休みだったんでしょ?」
そのセリフに、はらわたが煮えくり返る思いだった。
イライラした気持ちを料理にぶつけてしまい、野菜を細かく刻んで、刻みまくって、ドライカレーを作り上げた。
お皿にご飯を盛り、ドライカレーをかける。そしてその上に賞味期限切れの卵で焼いた目玉焼きをのせる。
白いご飯を汚したくないと言いながら、ドライカレーのときは半熟の目玉焼きをのせないと文句を言う夫。
「あとさ、玄関片付けといてよ」
玄関には買ってきた日用品が山積みのままだった。
ドライブレコーダーの映像を確認していて、放置したまま忘れていた。
否、本当は帰って来た夫に片付けてもらおうとわざと放置していたのだ。
私は一呼吸置いてから、ドライカレーをテーブルに運んだ。
そして、エプロンのポケットに手を入れる。
「ねえ、見て。なくしたと思ってたピアスがみつかったの!」
機嫌良く微笑みながら、手のひらにのせたピアスを卓也に見せた。
明らかに目が泳いでいるのが手に取るようにわかり、込み上げてくる笑いをなんとか飲み込んだ。
「そ、そうか。よかったな……。あ、玄関の荷物、あとで俺片付けとくわ」
動揺した卓也は早口でそう言うとピアスから目をそらし、ドライカレーを食べ始めた。半熟の黄身をぐちゃぐちゃとカレーと混ぜる夫を横目に、私は構わず続けた。
「助手席の足元に落ちてたの。ずっと探してたから本当にうれしい! 大事にしまっておかなきゃ……」
私は卓也から見えるようにして、リビングの引き出しにピアスを入れた。
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