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2.ピアス
翌日、土曜日。
何も言わず、卓也は出勤していった。
私がベランダで洗濯物を干している間に、夫はふらっといなくなった。
テーブルの上には飲みかけのコーヒーカップ。
キッチンには蓋が開いたままのインスタントコーヒーの瓶。
いつもふらっといなくなるくせに、痕跡ははっきりと残してくれる。
それらをきれいに片付けたあと、卓也から預かった車のキーを持ち、家を出た。
今日は三ヶ月に一度、日用品の買い出しに行く日だった。
洗剤などの日用品をまとめ買いする。
なぜまとめ買いするのかというと、我が家の近くにあるホームセンターでは、2個買うと割引してくれるのだ。
なので洗剤もティッシュも2個買う。
洗剤は洗濯用から食器用、お風呂用、トイレ用など、2個ずつ買えばかなりの量になる。そこにティッシュ、シャンプー類も2個ずつ買えば、あっという間にカートいっぱいになってしまう。
そして今日は特売の炭酸水も箱買いした。
力いっぱいカートを押しながら、レジを目指す。
この重い荷物を車に積み、そして家の玄関まで運ばなければならない。かなりの重労働である。
だからこそ今日の買物は夫にもついてきてほしかった。
やっとの思いでカートから車への積み込みが終わると、運転席に乗り込んで、さっき自販機で買ったお茶を一気飲みする。
本当は店内で買った方が安いのだが、また店内に戻って買物する気にはなれなかった。
一息つきながら、ぼーっと視線を上下に動かした。
すると、助手席の足元にきらりと光るものが見えた。
(なんだろう……?)
体を丸めて手を伸ばすと、それは片方のピアスだった。天使の羽根の形をしたゴールドのピアス。
羽根の曲線から、左右合わせると羽根がハート型に見えるものではないだろうか。
(これ、誰の……?)
私のピアスじゃなかった。
先々週、用事があって卓也の実家に出掛けた。そのとき私は助手席に座っていたが、これは落ちていなかった。
記憶をたどり、卓也が先週車で出掛けていたことを思い出す。
(たしかゴルフに行くって言ってた……)
私はナビの履歴を確認した。
すると、履歴は消去されていた。先々週、卓也の実家へ行った帰りに寄ったお店の履歴も消えてなくなっている。
(もしかして……)
結婚して二年。
私は初めて夫の浮気を疑うのだった――。
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