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4.罠にかかる夫
翌朝。
卓也が出勤したあと、リビングの引き出しを確認すると、入れておいたはずのピアスがなくなっていた。
私がお風呂に入っている間か、寝ている間に卓也が持ち去ったのだろう。浮気相手に返すつもりだろうか。
昨夜、動揺した夫の夕食後の行動はいつもと違っていた。
玄関に放置したままの日用品をそれぞれ部屋に運び、棚や物置にしまってくれたのだ。
そしてソファに仰向けに寝転がり、スマホ操作した。浮気相手に連絡しているのだろうか。ちらちらとこちらを盗み見ている夫の視線に気づいた私はわざと微笑み返したりもした。
寝室へ行き、私はドレッサーの引き出しを開けた。
小皿の中に、片方の天使の羽根のピアスが入っている。
そう、私がわざと卓也に見えるようにして引き出しに入れたピアスは、以前100均で買った似たようなデザインのピアスだった。
別物のピアスを受け取った浮気相手は、一体どんな反応をするのだろうか。
そして別物だと知った夫の顔を想像すると、愉快でたまらなかった。
***
そして夜、青ざめた顔で卓也が帰宅した。
「た、ただいま……」
いつもただいまなんて言わないのに、一体どうしたのだろうか。部屋に入って来るなり私の存在を確認して、その場に立ちつくす夫。
察するに、浮気相手にピアスを返した夫はそのピアスが別物であることを告げられ、罠に嵌められたことに気づいたのだろう。
私は素知らぬふりで茫然とする夫に声をかけた。
「もうすぐ夕飯準備できるから、先に着替えてきたら?」
すると、卓也はびくっと肩を震わせ「そ、そうだね……」と弱々しくつぶやいて寝室へ入って行った。
キッチンで秋刀魚を焼いていた私は髪を結い、バレッタでとめる。鼻歌を歌いながら、夫が寝室から出てくるのを待った。
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