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7.決意
会社の玄関前に書類の入った封筒を置き、私はそのまま駐車場へと戻った。
卓也にメッセージを送る。
『会社の玄関前に書類を置きました』
車へ乗り込み、会社の建物を見上げた。ちょうど駐車場から玄関が見える。
卓也が出てきて書類を手に取り、駐車場に停まるこちらの車に向かって手を振った。
そしてメッセージが届く。
『受け取りました。ありがとう!』
スマホから顔を上げると、卓也の姿はもうなかった。
私はハンカチで目元をおさえながら、浮気相手の女性の姿を思い出し、悔しさと悲しさでまた涙が溢れた。
あんなに清々しい朝から、たった数時間で地獄に落とされた。この怒り、悔しさ悲しさの感情をどう処理したらいいのか。
車のエンジンをかけ、泣きながら運転して帰宅した。
***
「あれ? どうしたの……?」
卓也は帰宅してくると、無人のキッチンを見てつぶやいた。
ソファに座り、ぼーっとしていた私は電源の入っていないテレビ画面を見つめていた。画面越しに夫が近づいてくるのがわかる。
数時間前に帰宅した私は何もやる気が起きず、ソファに座ったまま、気づけば夫の帰宅時間になっていた。
「ご飯、作ってないの?」
ため息交じりに卓也が訊いた。私は何も答えなかった。
「おーい、聞いてんの……?」
何も答えないでいると、夫は苛立ってみせた。
「シカトかよ、おい……!」
威圧的な態度をとられても私は何も答えなかった。テレビ画面越しに夫の顔を見たが、よく見えなかった。
卓也は盛大な舌打ちをすると「飯食ってくる」と言い、家を出て行った。
玄関ドアが乱暴に閉められた音で、私ははっとした。
離婚しよう。
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