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1.夫婦二人暮らし
「俺、明日仕事になったから」
帰宅早々、ネクタイをゆるめながら、だるそうに夫の卓也が言った。
私はキッチンで夕飯の支度をしながら、声を上げる。
「え~っ。明日は一緒に買物へ行ってほしいって言ってたじゃん!」
「仕方ないだろ、仕事なんだから……」
卓也はため息をつくと、イスに座ってテーブルを叩いた。
「それより俺は腹が減って死にそうなんだ。早くしてよ」
「先に着替えてきてよ!」
苛立ちながらそう返すと、卓也は渋々立ち上がり、寝室へ着替えに向かった。
私は鍋の火を止め、フライパンの上のハンバーグを皿に盛りつけた。
鍋のスープもお椀に入れてトレーに載せ、テーブルへ運ぶ。
カットサラダとくし切りにしたトマトを適当に皿に盛り、ご飯とともに並べた。
すると、タイミングよく部屋着に着替えた卓也が寝室から出てきて、
「今日はハンバーグか。魚が食べたかったなぁ……」
少したるんできたお腹をさすりながら、卓也はイスに座り、箸をとった。
何も言わず、黙々と私の作った夕飯を食べ始めた。
私はキッチンに戻り、自分の分を用意した。
少し形が崩れてしまったハンバーグとご飯、サラダを同じ皿に盛りつける。
洗い物を少しでも減らしたい私は、本当は卓也の分もそうしたいのだが、ワンプレートを嫌うためそれはできない。
夫は白いご飯を汚すのが嫌らしい。
カレーや丼ものは別として、納豆もご飯と別々に食べるタイプだ。
食べ終わった卓也はそのままリビングのソファに寝転がる。
食器はそのまま、こぼしたご飯粒もそのまま。
せめてキッチンまで運んでほしいと思う。
結婚して二年。夫婦二人暮らし。
結婚してから、夫は一度も食器を洗ったことがない。料理をしたことも、掃除をしたこともない。
「あのシャツはアイロンかけてくれた?」「あの靴下はどこにしまった?」などと聞かれるたびにため息をつく。
高橋茜、30歳。
日中はパートタイムで働き、家でも家政婦として働く。
私が思い描いていた結婚生活は、どこにもない――。
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