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一目惚れ
「俺と付き合ってよ、凪沙」
高校入学後、容姿に気合いを入れるようになったあたしは告白されることが多くなった。だけど、あたしが一番振り向いてほしい相手は、椿真くんただ一人。
椿くんは今日も涼しい顔をして、一人教室で勉強をしている。
話しかけたいんだけど、勇気が出ない。毎回なにも言えないままその場を去る。
まだオシャレなんて知らない中学生の頃、女友達とのお喋り、部活に明け暮れる毎日が楽しかった。だけど、その楽しい毎日に、椿くんがキラメキを運んできた。
隣の席、少し無愛想に感じるのは眼鏡のせい。ワイシャツのボタンは一番上までキッチリと留まっていて、ネクタイがきちんと真っ直ぐにおりる。サラサラの黒髪は耳の上で揃えられて爽やかだ。黒板を見つめていた眼鏡の奥、澄んだ瞳がこちらを向いた瞬間に、あたしの胸の中でコトリと、なにかが動いた。
「隣、よろしく」
ぎこちないけれど、会釈をして少しだけ笑ってくれた気がした。
「あ、うん。よろしく、ね」
ちゃんと笑えただろうか。それだけが心配だった。胸の奥で落っこちたなにかが、どくどくと音を立てながら迫ってくる気がして、あたしは椿くんから目を逸らすしかなかった。
一目惚れって本当にあるんだって、その時に思ったんだ。
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