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本当に見えるの?
高校に入ってから、椿くんに振り向いてほしくて髪を伸ばして毎日アイロンでストレートにしている。メイクも軽く覚えたし、制服は真面目すぎないくらいで着こなす。ご飯もバランスよく食べすぎないを心がけている。
入学してから、宮本くんをはじめ、何人かに声をかけられたけれど、肝心の椿くんとはまだ挨拶くらいで会話がない。
今学期、隣の席という最高のポジションをゲットしたにもかかわらず、あたしは外見が変われたとしても、内面は臆病で勇気のない内気なままだ。
だから、さっき宮本くんのことを追い払ってくれたことが何よりも嬉しかった。
なのに、あたしはお礼も言わずに帰ろうとしてしまっていた。
さっきのこと、勇気を出して「ありがとう」って言ってこようかな。でも、今更かな。なんの用事だよって不審がられないかな。
教室に踏み入ろうとしていた足を、元に戻した。
椿くんに近づける勇気があればいいのに。これじゃあ、あたしの小指に椿くんと繋がる糸なんて、付いているわけがない。
ため息を吐き出すと同時に、名前を呼ばれた。
「凪沙!」
顔を上げて前を見ると、またしても宮本くんの姿。
「なぁ、今度の夜市一緒に行こうよ。浴衣着てきてよ。友達に自慢したいから」
「は?」
「あと、夏休み入ったら遊ぼう。連絡先真衣に聞いといて良いでしょ? じゃあなー」
「は? ちょっ……」
言いながらどんどん遠ざかっていく宮本くん。あたしからの返答なんて聞く気がないじゃないか。またしても、大きなため息が出た。
「行く気がないならちゃんと断ったほうがいいと思うよ」
「え……」
後ろから聞こえてきた声に驚いて振り向くと、椿くんがあたしの横を通り過ぎていく。
「あ、あのっ」
思わず引き留めてしまったのに、あたしは振り返った椿くんの涼しげな瞳に言葉が出てこなくなる。
「なんか、いつも困った顔してるよね河本さん。余計なこと言ってしまっていたら、ごめんだけど」
「あの……椿くんって……本当に見えるの?」
「え?」
「運命の……糸」
あたしが恐る恐る聞くと、椿くんの瞳がメガネの奥でまんまるく大きくなってから、細く緩んだ。その表情にあたしの胸が高鳴る。
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